突破口
「あの、異世界からの客人にこんなことをしてしまい申し訳ありません」
レイラ嬢の護衛騎士と思しき青年はそう言って頭を下げた。
「あなたは?」
「私はヴァニタス家の騎士でウィラーと申します」
ウィラー青年はパッと見まだ二十代前半くらいに見えた。
レイラ嬢についているからには見習い騎士ではないだろうけど若い方だと思える。
見目が整っている辺りレイラ嬢が選んだのかもしれない。
もしくは年齢が近い者をあえて護衛につけているか。
「あなたのせいではないでしょう?」
「いえ。主が間違った行いをした時にお止めするのもまた騎士の役目であると思いますので」
話をする限りウィラー青年は真面目な性格のようだった。
騎士道的な話であればそれもまた一つの忠誠心なのだろうけど、あのヴァニタス卿やレイラ嬢が臣下の忠告を聞き入れるとは思えない。
「あなたはヴァニタス卿に忠誠を誓っているの? それともレイラ嬢かしら?」
「……いいえ。私は個人的に忠誠を誓ってはいません。ただ、私の家は古くからヴァニタス家門の一員ですので……」
なるほど。
彼自身の忠誠を捧げてはいないが家としてヴァニタス家に仕えているというわけだ。
そしてこんなことを私に話すからには、彼の中でヴァニタス家への忠誠心は失われてしまっているのだろう。
そうでなければ今の状況はあり得ない。
「そんなことを仰るということは、この現状を憂いていると思っても?」
「……はい」
歯切れが悪いのは仕方ないよね。
ウィラー青年は今まさに自身の家の仕える主を裏切ろうとしているのだから。
「ウィラー卿、先ほどの書類に私がサインをしたところでそのまま受理されるとお思いですか?」
「それは……」
王宮の事務方に詳しくないウィラー青年にはわからないだろう。
正直に言えばあれは正式な書式に則った書類だから私がサインをしてしかるべきところへ提出されてしまうとかなり分が悪い。
私が図書館で学んだ通りであればこの国はきちんと法に則って罪を裁いているようだけど、だからこそ正式な書面は証拠としての能力が高いのだ。
でもそんなことを詳しく知っているのは王宮で事務業務に携わっているか、もしくは裁判関係の仕事に就いている者たちだけ。
だから。
「ウィラー卿も仰ったように私は陛下も認めている『異世界からの客人』です。仮にヴァニタス卿が先ほどの書類を提出したとしてもそれはかなり精査されるはず。そして書類が脅しによって捏造された物だということが明らかになれば彼らはより大きな罪に問われるでしょう」
もちろんそんなことはヴァニタス卿も承知しているだろう。
それでもこんな事件を起こしたあたり、バレることのないように手を回しているに違いない。
とはいえ、そんな細かなことまでこの青年に言っているとは思えないよね。
「あなたが高潔な精神を持った騎士であり、ヴァニタス家のことを思うのであれば尚のことこのままにしておいてはいけないのでは? 今ならまだ間違いを正すことができるかもしれませんよ」
まぁ、私を攫った罪は無くならないけど。
それでも、誘拐だけの罪なのか、公文書偽造にさらには脅迫罪までついてくるかは違う。
場合によっては国の運営に影響を与えたことについても問われるかもしれないし。
少なくともべラルド卿とアルファン卿が議題に上げた案件を邪魔しようとしたのはたしかなのだから。
「ヴァニタス家を救えるのはあなただけ。ですから、私に力を貸してくれませんか?」
その顔に迷いを浮かべるウィラー青年の背中を押すように私は言葉を重ねた。
「ヴァニタス家を、救う……」
仮にヴァニタス卿とレイラ嬢が罪に問われたとしても、おそらく今ならまだ家としては残ることができる。
しかし罪が多くなればなるほどその影響は家門全体へと広がっていくだろう。
「私は、何をすればよろしいのでしょうか?」
迷いを振り切って、ウィラー青年が、そう言った。
数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になりましたら、ブックマーク登録、評価などしていただけるととても励みになります。
よろしくお願いします。




