侯爵家の思惑
まったくもって勝手な言い分にはかなり腹が立ったものの、とりあえず目先の危険が去ったことに私は一つ息をついた。
言葉の通じない宇宙人を相手にしている気分だわ。
そう思いつつ、同時に彼らがなぜ一日の猶予を示したのかということが気になった。
攫った相手を生かしておく時間が長ければ長いほど事件が露呈する危険性が上がり不利になりそうなものだけど。
ああでも、陛下が『異世界からの客人』として丁重にもてなすように周知した直後に私が殺されてしまったらさすがにまずいのだろう。
これがもしだいぶ経ってからのことであればまた違うのかもしれないが、今私に何かあればそれは国の威信にも関わりそうだ。
ではなぜこのタイミングで彼らは私を連れ去ったのか。
話を聞く限りレイラ嬢はべラルド卿に近づく私が気に入らず、そしてヴァニタス卿は家門の仕事に関して他の人へ門戸を開くことを提案した私を排除したい。
大方そんなところだろうか。
……っていうか、私はべラルド卿の気を引こうとしたことなんてないけど!
そこに関しては物申したい気持ちだ。
そして家門の仕事についてはまだ議題を上げたばかり。
これから内容を詰めようとしているところに先ほどの話が広まればこの話は立ち消えになってしまう。
正しくそれが狙いということね。
ついでにレイラ嬢にしてみれば私を排除できて一石二鳥。
提案した者がその提案を利用して利益を得ようとした。
その結果罪を犯したことにより牢獄へ入った。
そういった危険性を考えてもやはり今まで通り仕事は家門に紐づかせたままの方がいい。
貴族会でそう話をもっていく気なのかもしれない。
もしここで私が例の書類にサインをすれば彼らにとって面倒なことが一気に片づく。
そのためにも何としてでも承諾させたいのだと思うのだけど、同時に私を殺すことは難しいに違いない。
つまり、ああは言っていても彼らは私を殺すことなんてできないのだ。
……まぁ、怪我をさせるとかは可能なんだけどね。
言うことを聞かせるためには骨の一つや二つ折ってもいいくらいには思っていそう。
考えただけで怖いけど……。
でもたとえそうだったとしても私は書類にサインをする気はない。
気はない……んだけど、このままでは無駄に痛めつけられるばかりになってしまう……。
それは嫌だ。
痛いのは勘弁願いたい。
でもでも奴らの言いなりにサインするのはもっと嫌だし!
ああー!!
本当にどうしたらいいのよー!
「あの……」
どうやってこの危機を脱するかを考え込むあまり、私は自分が声をかけられていることに気づかなかった。
そもそも部屋の中には自分しかいないと思い込んでいたせいもある。
「……あの!」
再度少し大きめに声をかけられて、私は驚きにビクッと体を跳ねさせた。
「え?」
声の主を振り返ればそれは先ほどの騎士で。
あれ?
この人ヴァニタス卿たちと一緒に出て行ったんじゃないの?
そんな間の抜けた感想を抱いてしまったのだった。
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