策略
「私が財務に干渉して不当に資金を横領しようとした、ですって!?」
ヴァニタス卿に見せられた書類に書かれていた内容はこうだ。
曰く、聖女のオマケであるナツメは聖女とは違い自由に使える金銭がなかったためどうにかして国からお金を得ようと画策していた。
曰く、そのために家門に紐づく仕事を他の家門の者にも解放するように仕向け、それによって自身の意を汲む者を財務部へ送り込もうとしていた。
曰く、そしてその者を使い図書館への資金の割り振りを増やし、国の資金を横領しようとしていた。
図書館の管理責任者はグノシー伯ではあるが、陛下も認める異世界からの客人の希望を無視することは難しいことを考えれば、図書館へと割り振られた資金をどのように使うかに関してはナツメに一任されていたと推察される。
ですって?
はぁ!?
まったく、いったいどこのナツメさんの話よ。
「そうだ。聖女のオマケであるお前はそのために家門の仕事に他の家門の者が従事する機会を設けようとした、そうだろう?」
「意味がわかりませんね。私はそんなことしていませんし、第一この『私の意を汲む者』なんていないのだからこの説明は成り立ちません」
そもそもこちらの世界の知り合い自体少ない私に自分の手足となって動いてくれるような人がいるわけないでしょうが。
まぁそれ以前に国から何の対価も無しに金銭を得ようなんて思ってもいないし、施しを受けるくらいなら自分で働いて賃金を得た方がずっといい。
「自身の罪を認めないということだな」
「罪もなにも、こじつけもいいところでしょう?」
荒唐無稽と言ってもいいくらいの言いがかりのくせにやたらと自信満々のヴァニタス卿が不気味だ。
「いやはや困ったものだ。自ら認めた方が罪が軽くなるというのに」
「言いがかりは止めてください」
「これを見てもそんなことが言えるかな?」
そう言うとヴァニタス卿はもう一枚書類を取り出した。
「ナツメ殿から命じられて犯した罪だと認める……ですって?」
その書類にはアルゴールという名の青年が『異世界からの客人であるナツメ殿に命令されて財務部へと潜入しようとした。また、それは財務部から不当に資金を得るためだった』と書かれていた。
アルゴールって誰よ?
まず最初にそう思ったけれど、つまりこれはヴァニタス卿によって仕組まれたものだということだ。
「ここから出たくばこのことを認める書類にサインをしろ」
そう言って見せられたのが最初に出されたあの書類。
つまり、このでっち上げの罪を犯したことを認めるサインをしろと、そういうことだった。
「しません」
「何だと?」
「やってもいないことを認めることはできないと言いました」
キッと睨んでそう言い切った。
しかしヴァニタス卿はそれもまた想定内だったのか余裕の表情のままだ。
「なかなか強情だな。しかしサインをするまではここから出すことはできん」
どうせサインをしたところでヴァニタス卿の言い分を認めてしまったらここを出た後は王宮の牢獄行きになるだけだろうに。
そう思ったけど余計なことは言わなかった。
「まぁいいだろう。お前にも少しは考える時間が必要だろうからな」
なぜかそんなことを言うとヴァニタス卿はテーブルの上に書類を置いた。
「ああ、そうだ。たとえサインをしなかったとしても、私はお前をどうとでもできるのだということを忘れないほうがいい」
生きていたいのなら言うことを聞け。
逆らうのであれば命を奪うこともできる。
ヴァニタス卿は言外にそう言っている。
「明日同じ時間にここへ来る。それまでの間によく考えるんだな」
そう言い残して、ヴァニタス卿とレイラ嬢は部屋から出て行ったのだった。
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