黒幕
「お父様。ですがこの女がルシウス様にエスコートされていたかと思うと腹が立ちますの」
「まぁまぁ。それはこの前だけのことだろう。陛下がああいった見解を示した手前、聖女様を殿下がエスコートするのであれば、おまけとはいえ異世界からの客人のエスコート相手が誰でもいいというわけにはいかない」
「と言いますと?」
「つまり、殿下との釣り合いを考えればベラルド卿がちょうど良かったということだ」
ヴァニタス卿の言葉にレイラ嬢がパァッと表情を明るくする。
「そうですわよね。こんな行き遅れの女をルシウス様が選ぶわけないわ」
ヴァニタス卿の言葉は私も薄々考えていたことだ。
あの場において殿下の次に位が高く、夫人のいない相手といえばベラルド卿しかいなかった。
国王陛下が私を聖女と同等レベルの存在と表現するのであればエスコート相手はそれなりの立場の者でなくてはならない。
そういう意味ではリベルタ嬢の兄であるリカルド卿でも家の位的には問題ないけれど、年齢の釣り合いが取れないだろう。
とはいえ、それならドレスの用意やエスコート相手を誰に頼むかとかを私に委ねないで欲しいのだけど。
つき合わされるベラルド卿が気の毒よね。
困っていた時に手を差し伸べてくれたベラルド卿の存在は私にとって大きい。
でも彼にしてみれば仕事の一環のはず。
ならば頼りすぎではダメだよね。
そう、もしかしたらべラルド卿が助けに来てくれるかもしれないなんて、期待してはいけないのだ。
改めてそう決心して、私は顔を上げた。
「これはいったいどういうことでしょう?」
捕らわれてから初めて明確な質問をした私をヴァニタス親子が睨んでくる。
「あら。発言を許してなどいないわよ」
「あなたの許可を取る必要はないと思いますが?」
私は顎を上げると挑戦的にレイラ嬢を見た。
この場において圧倒的に有利なのは向こうだ。
劣勢の立場に立たされているのであれば少しでも相手の意識を逸らさなければならない。
だから私はあえてレイラ嬢を煽る。
彼女が怒りを覚えれば覚えるほど隙ができるはずだから。
そして彼女がこの場にいる限り、ヴァニタス卿が身体的に私を害する可能性は低いだろう。
なぜなら血を見るような現場に娘を居させるとは思えないからだ。
レイラ嬢は荒事には慣れていなさそうだし、彼女がいる限り殺されることはない、そう思った。
「何て生意気なのかしら!」
「私のことをどう思われてもいいですけど、こんなことをして何もお咎めがないなんて、思っていないですよね?」
レイラ嬢と話しながらここから逃げるための考えうる限りの方法を何度も頭の中でシミュレーションする。
そうやって忙しなく頭を回転させていた私の目の前に、ヴァニタス卿が一枚の紙をヒラヒラと見せてきた。
「これは?」
「お前がサインすべき書類だ。ここから出して欲しくば大人しく言うことを聞くんだな」
そう言われて、私は書類に書かれている内容に目を走らせる。
「な……!?」
到底承諾できない内容が、そこには書いてあった。
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