令嬢の怒り
「あら? なんでこの女は自由にしているのかしら?」
ドアを開けて入ってきたのは騎士を伴ったレイラ嬢だった。
あー……なるほど。
ある意味期待を裏切らないというか、やっぱりそうかと納得できてしまう。
ヴァニタス親子の密談を聞いて身の回りには気をつけていたけれど、護身グッズでは防げなかったということだ。
それにしてもあんなに大胆に人を攫うとは思わなかったわ。
少なくとも一人で街中に出るとか、そういったことをしなければ大丈夫だと思っていたのは私の落ち度なのかもしれない。
中庭といえば王族や聖女である花音ちゃんの居住している場所と近いし、さらには入り口と出口に警備の騎士も配置されている。
でもヴァニタス家なら騎士を外させることもできるのかも。
そう思えば不思議ではなかった。
ただ、その場合騎士団内にヴァニタス家の意向を重視する者がいるということになってしまうけど。
「お前、手足を縛っておきなさいと言っておいたでしょう?」
レイラ嬢は一緒に入ってきた騎士へ扇を突きつけるとそう言った。
「しかし、陛下も認める異世界からの客人へそんなことは……」
「聖女様ではないただのおまけよ」
そもそもここへ攫ってきている時点で騎士の言っていることは矛盾しているんだけどね。
異世界からの客人として対応するというのであればこの状況はあり得ない。
とはいえ、見る限り彼はヴァニタス家所属の騎士。
自身の仕える主人からの命令には逆らえないのだろう。
そして逆らえないながらの妥協点が部屋の中では拘束しないということなのかもしれない。
「まぁいいわ。どうせここから出ることなんてできないのだから」
そう言うとレイラ嬢は私に近寄ってくる。
もちろん私が何もできないようにとこの時ばかりはそばの騎士に私が動かないように腕を拘束させた。
「なぜルシウス様はこんな女のことを気にかけていらっしゃるのかしら?」
手に持つ扇で私の顎をクイっと持ち上げて、レイラ嬢はまじまじと見つめてくる。
「華やかさの欠片もない容姿ね。それに、年もいってるわ」
この世界のご令嬢のように侍女がついて容姿を磨いているわけではないのだから、お金に糸目をつけずに己の容姿に手間隙をかけている貴族令嬢に敵うはずがない。
それに年がいっているのは本当のことだ。
私としては別にそこに恥じる要素は何もないのだけど。
結婚が女性としての価値のすべてで適齢期も明確に決まっているこの世界の令嬢にしてみれば、この年まで未婚でさらには表に出て仕事をしている辺り、私は理解不能な存在なのかもしれない。
「何にしても腹が立つわね。お前が身の程もわきまえずにルシウス様の周りをうろちょろしてるなんて」
綺麗な顔に似つかわしくない表情を浮かべ、眉間にクッキリとした皺を刻んだレイラ嬢が吐き捨てるように言う。
うわー……。
令嬢らしからぬ言いよう。
そんなことを思ってしまうのは余裕があるからではない。
正直レイラ嬢には言いしれない恐ろしさを感じている。
それは彼女が何をやらかすかわからない雰囲気を纏っているからだ。
両腕を騎士に拘束されている私の指は震えていた。
その手をぎゅっと握りしめて、私は震えを握りつぶす。
落ち着け……。
冷静さを欠くのが一番ダメよ。
誰もいなかったさっきまでよりも今の方がチャンスがあるのかもしれないのだから。
今この場にいるのは私とレイラ嬢と騎士の三人。
一番警戒すべきは騎士の人かもしれないが、先ほどの発言を聞く限り彼が私を直接的に害する可能性は少ないだろう。
今も腕を拘束してはいるものの強い力ではなく、彼から私を傷つけようという気配は感じなかった。
むしろなるべく怪我をさせないようにという気遣いさえも感じる。
私は部屋の入り口に向かって床に膝立ちさせられており、その背後に騎士の人がいた。
そして私と入り口の間にレイラ嬢。
さらにはドアは今開け放たれている。
騎士の拘束さえ緩めばあとはレイラ嬢だけ。
毎日本を抱えてあちこち移動している私はレイラ嬢より力が強いはずだ。
先ほどよりも脱出の希望が見える。
騎士の拘束が緩む瞬間が狙い目だろう。
そう思ってタイミングを測っていたのだけど。
「レイラよ。そうイラつくでない」
レイラ嬢の背後から誰かが部屋の中へ入ってきて、そう、言った。
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