宰相の疑い Sideルシウス
「ナツメ殿が攫われたと聞いたが?」
リリアに呼びに行かせてからほどなくして騎士団長のアルファンが執務室へやってきた。
急いできたのか常は整えられている髪の毛がいく筋か乱れている。
「リリアから詳細は?」
「いや、まだだ。ナツメ殿の件と聞いて急いで来たからな」
ルシウスと同様アルファンも息子のカイルの関係でナツメに対する恩を感じているのだろう。
いつになく彼にも動揺が見られた。
「昼過ぎに王宮の中庭で攫われた可能性が高い」
「何だと? 中庭は近衛騎士の警邏ルートだ。さらには中庭の入り口と出口にも騎士を配置しているはずだが……」
「そうだ。通常であればあの場で攫われるなど考えにくい」
「……あえて騎士を外させた?」
「その疑いがあるだろう」
ルシウスの返答にアルファンが沈黙する。
「騎士を警備場所から外すことなど簡単にはできない」
「少なくともそれなりの地位にある者が命じなければ……か?」
ルシウスの問いかけにアルファンの眉間にシワが寄った。
警備内容を熟知しているからこそ、騎士を簡単に動かすことなどできないと理解している。
であれば誰が中庭の警備が手薄になるように指示したのか。
「今日の警備担当を確認しよう」
「その件に関しては任せた。私はナツメ殿の行方を探す」
「心当たりはあるのか?」
「そうだな……」
ルシウスは頭の中にさまざまな可能性を思い浮かべていく。
「大きく分ければ聖女様関連か、もしくはこの前貴族会に提議した、家門にかかる仕事の割り当て変更に関するものか」
ナツメと聖女は同じタイミングで異世界から降臨した以上無関係ではいられない。
そして仕事の割り当て変更に関しては発案者がナツメであることが知られている。
「もしくはお前に熱を上げている令嬢関係か、だな」
「おい!」
元々学園で同期だったこともあり、アルファンはルシウスに対して気安い態度を取る。
そういったつき合いがあったことからレグルスとカイルのことも相談できたわけだが。
現状貴族会で議論中とはいえ、二人の間ではそれぞれの家門の仕事に対して息子を交代させることで意見が一致していた。
つまり、ルシアスの子であるレグルスが騎士団の仕事に、そしてアルファンの息子のカイルが宰相の仕事に就くということだ。
「私に熱を上げる令嬢などそうそういない」
「何を言ってるんだか。妙齢のご令嬢から未亡人まで、お前に熱い視線を送っている令嬢はたくさんいるだろう?」
早くに妻を亡くしていることもありルシウスは長い間社交界で注目され続けている。
息子がいてもその容姿は若々しく、年齢を重ねることによって渋みが増したことでむしろ人気は上がっていた。
子供がいることはハンデに思われることもあるが、逆にこれから後継を求められることのない相手というのが魅力になる場合もある。
たとえ子を産まずしても『公爵夫人』になれることに違いはなく、むしろその方がいいと言うご令嬢もいるくらいだった。
「ああ……場合によっては原因が組み合わさっている可能性もあるな」
不意に思いついたようにアルファンが言った。
「今上げた要因が、か?」
「そうだ」
「そういえば……」
アルファンの指摘にルシウスも思い当たることがある。
ヴァニタス家はナツメの警護に難色を示し、そして家門の仕事の割り振りに関して反対している。
(それにヴァニタス嬢はずっと私に執着し続けているしな)
そういう意味ではかなり怪しい相手ではあるのだが。
「そんなにわかりやすい行動を起こすか?」
「ん? どういうことだ?」
ルシウスの呟きにアルファンが反応する。
「それはだな……」
だからルシウスは。
今一番疑わしいヴァニタス家のことを伝えたのだった。
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