密談
「それはだな、この前の貴族会で女性の登用の件だけでなく、家門に固定されている仕事を開放してはどうかという議題が出たのだ」
「開放、ですの?」
「そうだ。つまり、我が家でいえば財務の仕事を一手に請け負っているが、別の家門の人間にもその仕事に従事する機会を与えたらどうかという考えなのだが……」
「そんな!」
父親の話にレイラ嬢が驚きの表情を浮かべる。
「それは……あまりよろしくはありませんわね」
なぜ家門の仕事に他の人が入るのを嫌がるのか。
優秀な人材は積極的に登用する方がいいし、レグルスくんの例のように仕事に対する向き不向きを考慮した方がいい場合もある。
それを考えれば家門で仕事を固定することなく多くの人に門戸を開いた方がいいはずなのに。
「どうやら聖女様にくっついてきたナツメとかいう女が発案したらしい」
「何ですって!? べラルド卿につきまとっただけでは飽き足らずにそんなことまで言い出すなんて」
「周りに変な考えを広めないで欲しいものだ」
レイラ嬢はプリプリと怒り、その父親はイライラしている。
……というか、私はべラルド卿につきまとった覚えはないんだけど!
「これからも陛下に変な入れ知恵をして貴族会を掻き回すようなら……考える必要があるな」
「……そうですわね。べラルド卿のそばからも排除したいですし、お父様、お願いしますわよ」
……何だかきな臭い感じになってきた?
二人の雰囲気が先ほどまでとは違い物騒な空気をまとっている気がする。
しかも話題になっているのは私のことだ。
少なくともヴァニタス家にとって私は気に入らない対象ということだろう。
そして今の話を聞いていたことを知られるのはかなりまずい。
幸い彼らは私がここにいることを知らないから、このまま見つかることなくこの場を去って対策を立てるべきよね。
そう思った私は善は急げとばかりにそっとその場を離れた。
あの後彼らがどんな話を続けるのかは気になったけど、深追いして更なる危険に近づくわけにはいかないから。
私は彼らのいる場所を迂回するように回り込み、図書館の入り口付近のカウンター裏にある作業スペースへと避難した。
「おや? ナツメ殿が作業時間中にこちらへ来るのは珍しいのぅ」
グノシー伯のそんなのんきな声が聞こえてきて、私は体の力を抜く。
無意識に身体中に力が入っていたらしい。
「ん? 何かあったかの?」
首を傾げて問いかけてくるグノシー伯に何と答えたものか。
正直に話してしまえば彼を巻き込むことになる。
しかし先ほどの会話を聞く限り、もしかすると今後何か危険が迫ってくるかもしれない。
そうなった時、私は自分で自分の身を守れるのだろうか。
そんなことを考えたら背中にゾッとした寒気を感じた。
何かしらの対策を立てる必要があるのかも。
「グノシー伯、少し早いですけど今日はもう上がっても?」
「ナツメ殿の中で仕事の区切りがついているのであれば問題ないのではないかのぅ」
「ありがとうございます。では本日はこれで失礼させていただきますね」
そう答えて、私は足早に職場を後にしたのだった。
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