朗報
舞踏会にて無事にお披露目を済ませた私ではあるけれど、何か生活が変わったかといえば実は何も変わっていない。
今までと変わらず毎日図書館へと出勤し、真面目に勤務した後は王宮内の部屋へと戻る。
お披露目を済ませたから生活の場を使用人たちが住んでいる棟へ移動したいと希望したもののそれは叶わなかった。
曰く、私が誰なのかわかるようになった今だからこそ下手に誰かに絡まれることのないように王宮内に住んでいた方がいいのだとか。
でもそうすると私はずっとここから生活の場を移せないのでは?
それとも、ある程度時間が経てば周りも私の存在を気にしなくなるのだろうか。
疑問に思ったものの私からはどうすることもできず、結局いまだに現状維持のままだった。
そんな中でも朗報が一つ。
何と、リベルタ嬢の文官登用が決まったのだ。
彼女はまだ学生の身だから正式な勤務は卒業してからになるけれど、初の女性文官の誕生と思うとちょっと興奮してしまうよね。
しかもリベルタ嬢は王太子妃教育を受けていたこともあって学校で習うような範囲の勉強はすでに終えている。
そのため文官の仕事に早く慣れたいという本人の希望もあって先んじて研修のような形で仕事に就き始めたとか。
貴族令嬢としての幸せと言われている良い家の令息と結婚する未来が遠ざかってしまった気がするのは否めないけど……。
本人にあまり結婚願望がなさそうなのよねぇ。
まぁ、もしかすると職場内で良い出会いがあるかもしれないしと思うのは希望的観測かしら。
王宮に勤務する文官はそのほとんどがどこかの貴族家の次男や三男だ。
というのも、長男である嫡男は家を継ぐ必要があり、逆に次男や三男は自力で職を得て生きていかなければならないから。
ブレイブ公爵家はリベルタ嬢の兄であるリカルド卿が継ぐから、仮に王宮でリベルタ嬢と出会って結婚することになっても継ぐべき家はないんだけどね。
そんなことをつらつらと考えながら、今日も私は例の場所で図書の修復と蔵書管理のための目録作成を続けていたのだけど。
……ん?
どこからか人の話し声が聞こえて、私は作業の手を止めた。
私が図書館に勤務していることはあまり公になっていない。
入館証があれば誰でも入って来れる場所でもあるから安全上の観点から知られない方がいいのだとか。
……結局のところお披露目をしてもあまり状況が変わってないのよね……。
そう思いつつ、私は本棚の隙間から誰がここまで来たのかを確認した。
あれはレイラ嬢と……誰?
隙間から見えたのはこの前の舞踏会で絡んできたレイラ嬢と年嵩の男性だ。
雰囲気が似ているから父親かもしくは親族だろうか?
「お父様、どういうことですの?」
「どうもこうも、陛下がお決めになったことだから仕方ないだろう」
「だからってなぜリベルタ様が? まさか、ソレイユ殿下と婚約破棄になったからって今度はべラルド卿の後添いにでもおさまろうというの?」
「リベルタ嬢は公爵令嬢だぞ。いくらべラルド卿が同じ公爵家の当主だからといってわざわざ後妻に入る必要はないだろう? もし本当に婚姻を希望するのであれば息子のレグルス殿の方が相応しい」
どうやら親子の話題の中心はリベルタ嬢のことのようだ。
「ではなぜあんな文官の真似事のようなことをしてべラルド卿の近くにいるのよ!」
「だからさっき言っただろう? 彼女は今度の春から正式に文官として登用されるんだ。そのための準備期間のようなものだと」
「納得いきませんわ。女性が文官だなんて、あり得ないでしょう?」
なるほど。
親へ用事があるとでも言って王宮にやってきたレイラ嬢がべラルド卿に会いに行ったらそこにリベルタ嬢がいたと、そういうことなのだろう。
そしてそのことに納得できないレイラ嬢が父親に不満を言っていると。
そういえば初めての女性文官ということもあってしばらくはべラルド卿の元で勉強するって言ってたっけ。
それに、女性のいない職場で公爵令嬢でもあるリベルタ嬢に何かあったらいけないという配慮もあるのかもしれない。
「大体にして、女性は婚姻によって家に入るのが当然なのに」
「そうだな。それはたしかにそうだ。陛下やべラルド卿にも困ったものだよ。改革や改善も大切だが、今までの慣例を変えようだなんて」
苦々しく言うヴァニタス卿にレイラ嬢が訝しげな顔をする。
「お父様、リベルタ嬢のこと以外にも何かありますの?」
「それはだな……」
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