宰相の本音 Side ルシウス
王家主催の舞踏会でルシウスはナツメをエスコートした。
エスコートしただけでなくドレスも贈ったのだが、王家から特別な依頼があったわけではない。
ナツメにドレスショップに伝手があるとは思えなかったし、レグルスの相談に乗ってもらったお礼も兼ねてもともとドレスは贈るつもりだった。
その時点ではエスコートまで考えていたわけではなかったが、ナツメからリカルドの話を聞いてとっさに嫌だと思ったのはたしかだ。
(私はなぜ嫌だと思ったのだろうか?)
舞踏会の最中、陛下に呼ばれて会場の中を移動しながらルシウスは思う。
ナツメをエスコートすることがルシウスにとっても利点があったことは否定しない。
このところずっとヴァニタス嬢に付きまとわれて辟易としていたからだ。
王宮で遭遇した時に声をかけてくるだけでなく、邸宅には何度も手紙が届いた。
最近では息子であるレグルスにまでまとわりつくようになっている。
そんな中単身で舞踏会に参加したらどうなるのかは火を見るよりも明らかだった。
実際にヴァニタス嬢の父親からもおりにつけ娘との縁談を匂わされているのだが、その都度ルシウスはやんわりと断っている。
相手は財務を担当する家門の当主。
敵に回せばそれはそれで面倒だった。
(とはいえヴァニタス嬢と結婚するなど考えられないが)
断る理由はいくつかある。
一つはレグルスも大きくなり子どもの母親を求めていないこと。
もう一つは家の内向きのことはすでに家令を含めて邸宅の者でまかなっており女主人を必要としていないこと。
そして何より。
ルシアスがヴァニタス嬢を好ましく思っていないからだった。
(本人は誇り高い性格だと思っているのかもしれないが、実際は自己中心的な考え方をする女性だ)
さらには他者を蹴落とすことに対して良心の呵責も感じていない。
侯爵令嬢である自分は尊重されて当然と考え、他人は自分に従う者だと思っている。
(侯爵家の教育に疑問を感じるな。ただ単に甘やかして育ててしまっただけならまだしも、ヴァニタス家自体がそういった考えの家だとしたら……)
財務を担当する家門ということは、国の資金をある程度自由に融通できるということだ。
今まで特に問題が聞こえてきたことはないが……。
注視しておいた方がいいかもしれない、そう思った。
「陛下、お呼びだと伺いました」
「ああ。歓談中すまないな」
王座のすぐそばに寄れば国王からいらえがある。
「先日のリベルタ嬢の件、今度の貴族会で採決を取る」
「それでは……」
「そうだ。必要があれば協力を求めるといい」
(陛下があえてこのタイミングで答えをくださったということは、他の者たちに気づかれないように助言するためなのだろう)
先日ルシウスはナツメを伴って陛下に謁見し、リベルタの希望、つまり彼女が今後誰かと縁組をするよりも仕事に従事したいと思っている旨を伝えた。
最初は驚きの表情を浮かべていた陛下も話を進めるにつれて真剣に耳を傾け、一考の価値ありとの結論を出したわけだが。
(思ったよりも早く貴族会を開くことになったな)
謁見時ナツメは自身のいた世界での女性の立場について説明した。
さらには国の発展のためにも女性に機会を与えることが必要だと訴えたわけだが、結果として陛下もまた心を動かされたということなのだろう。
(それに、王太子妃の教育を受けたリベルタ嬢は国の機密事項も知っている。野放しにできない事情も考えれば、そのまま文官として仕事に従事してもらう方が良い面もあるはずだ)
「承知いたしました。ではそのように」
陛下の言葉に隠された意味。
それはリベルタ嬢の希望を通すために水面下での交渉を認めるということ。
まずは誰から会うべきか。
ルシウスは貴族会のメンバーを思い浮かべながら思案するのだった。
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