疑惑
「ところで、レイラ嬢はどうして私の名前が『ナツメ』だと知っているのでしょうか? 彼女はそれが姓ではなく名前だと確信している感じでしたが」
べラルド卿の微笑みという目の保養に忘れてしまいそうだったけど、私は先ほどのレイラ嬢との会話で気になったことを聞いてみる。
「たしかに、それはそうですね。陛下は聖女様とナツメ殿に関する詳細について箝口令を敷いていたはずです」
侯爵家といえばトルス国でも上位貴族になるし、父親から聞いて知っていたとも考えられる。
でもいくら家族とはいえ、仕事上の話を娘に詳しくするだろうか。
「ヴァニタス家は文官の中でも財務を担当している家門です。当主は聖女様の件も含めて国の機密事項を知り得る立場ではありますが……」
そこでべラルド卿は考えるように言葉を切った。
「気になるので一度調べてみます。ナツメ殿はできる限りヴァニタス嬢に近づかないでいただけると助かるのですが」
いや、誰が好き好んでレイラ嬢に近寄るものですか。
どこからどうみても面倒な性格をしてる人なのに。
「今日お披露目はされましたけど私はこれからも社交界に顔を出すつもりはありませんし、今後も仕事に勤しみたいと思っていますので心配は無用かと」
あまり重く言ってもべラルド卿が気にしそうだったので、私はいかにも気軽な感じでそう口にした。
「それは……ありがとうございます」
べラルド卿が再び微笑む。
なぜか今日は彼が笑みを浮かべるのをよく見る気がした。
こんなに頻繁に微笑む人だったっけ?
そうは思ったけど、難しい顔や仏頂面をされるよりはいいかと納得する。
「ああ……どうやら陛下が呼んでいるようですね。少し席を外しますが、よろしいでしょうか?」
「もちろんです」
「下手に話しかけられると大変でしょうから、この場から離れないでいただけるとありがたいのですが」
「どこにも行くつもりはありませんので大丈夫ですよ」
殿下や聖女である花音ちゃんがいるこの場であれば無闇に誰かが近寄ってくることもないだろう。
そう思って答えた私の言葉に納得すると、べラルド卿は彼を呼びに来た人と一緒に場を離れて行く。
なんとなくその背を見送っていたら横合いから興味津々な花音ちゃんに話しかけられた。
「ナツメさん、べラルド卿と何だか良い感じですか?」
「……え?」
一瞬言われた意味がわからず思わず問い返す。
「だから、ベラルド卿と良い雰囲気だなと思ったんですけど」
そう聞く花音ちゃんは恋バナを楽しむ女子高生の顔をしていた。
良い感じ?
べラルド卿と私が?
さすが女子高校生。
恋バナが好きだよね。
「べラルド卿は私が他に頼る先がないから気にかけてくれているだけだと思うけど?」
「ほんとーに、それだけですか?」
花音ちゃんが疑わしげな視線を向けてくる。
「それ以外に何もないでしょう? 変なことを言うとべラルド卿に迷惑がかかるわよ」
ただでさえ望まない好意に困らされているべラルド卿に私まで迷惑をかけるわけにはいかない。
そう思って答えたんだけど。
「殿下、どう思います?」
「……ナツメ殿が鈍感だということはわかった」
そこ、失礼なこと言ってない?
しかもべラルド卿の気持ちを勝手に推測しているし。
恋バナは自分たちのことだけでお願いします。
そう私が心の中で思ったのは仕方ないことだと思う。
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