令嬢の理由
「ヴァニタス嬢。私はナツメ殿から何も無理なことは言われておりませんよ」
やんわりと、私の隣からべラルド卿がレイラ嬢の言葉を否定する。
「まぁ! べラルド卿はお優しすぎますわ。それに、わたくしのことはレイラと呼んでいただきたいと前々から申しておりますのに」
……なるほど。
今のレイラ嬢の言葉でなぜ彼女が私に絡んできたのかがすぐにわかった。
つまり、彼女はべラルド卿に好意を持っていて、突然現れた上にベラルド卿にいろいろと気遣われている私の存在が邪魔なのだろう。
「特別な関係でもないご令嬢を名前で呼ぶことはできません」
常のベラルド卿であればもう少しオブラートに包んだ言い方をする。
そのべラルド卿がこれだけはっきり言うということは、今までレイラ嬢がべラルド卿の言うことを聞き入れなかったことがうかがえた。
そういえば私が名前で呼んで欲しいって言った時難色を示していたよね。
これが原因か、と思わず思ってしまう。
「あら。ではなぜナツメ様のことは名前で呼んでいらっしゃるのかしら? まさか、特別なご関係、ではありませんでしょう?」
……なぜ彼女は私の『名前』が『ナツメ』だと知っているのだろう?
陛下は花音ちゃんのことも私のことも名字は無しに名前だけ紹介していたのに。
この世界の人にとってはパッと聞いただけではそれが『名前』なのか『姓』なのかわからないはずだ。
「ナツメ殿はナツメ殿ですので」
べラルド卿は答えになっているのかなっていないのかわからない返答をする。
そんなべラルド卿にレイラ嬢はいくぶん不満気な顔をしていたが、それ以上自分の我を通したところで思う通りにはならないと察したのか再び扇を広げて自分の口元を隠した。
不満そうな口元を隠しても目が物語っているんだけど。
「ナツメ様はべラルド卿の優しさに甘えすぎないことね」
キッと私を睨んで、レイラ嬢はそう言い捨てると身を翻してその場を去って行った。
いやはや、なかなかに個性の強いご令嬢だわ。
強めの敵意に当てられて疲れてしまいそう。
「ナツメ殿、大丈夫でしたか?」
そんな私にべラルド卿が気遣わしげに声をかけてくる。
「ヴァニタス嬢はわりと思い込みの激しい性格をされていますので、下手に庇いだてをするとさらに当たりが強くなりそうで……。不快な思いをさせてしまい申し訳ないです」
いや、別にべラルド卿が悪いわけではないのだけど。
それでもべラルド卿にしてみれば自分が原因で私がレイラ嬢に難癖つけられたようなものだから気になるのかもしれない。
ああいう性格の人、どこにでもいるんだけどね。
そして本人は自分に問題があるとは思っていないパターンが多い。
「……べラルド卿、心中お察しします」
思わず、そんな言葉が口をついて出た。
「……お気遣いありがとうございます」
私の言葉に一瞬驚きの表情を浮かべたべラルド卿は、そう言うとふわりと微笑んだ。
数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になりましたら、ブックマーク登録、評価などしていただけるととても励みになります。
よろしくお願いします。




