侯爵令嬢
かけられた声に振り向けば、そこにはハニーブロンドの髪にアンバー色の瞳の女性が立っていた。
年齢的には二十代中盤だろうか。
花音ちゃんたちよりは年上だと思うけれど、私よりは年下に見える。
「わたくしレイラ・ヴァニタスと申しますの」
名乗れば自分が誰なのか当然わかるだろうとばかりに言われたけれど、残念ながらどちらのレイラさんかなんて全然わからない。
「はじめまして」
お披露目されればさまざまな思惑を持った相手が近づいてくる。
相手は私が誰なのかを当然わかって声をかけてくるはずだから、いちいち名乗らなくても良いと、あらかじめベラルド卿に言われていたから私は挨拶だけを返した。
「我が家は侯爵の位を賜っていますわ」
私の反応がいまいちだったからかレイラ嬢が言葉を重ねる。
花音ちゃんと違い私はトルス国について教師から学んでいるわけではない。
それでも勤務先が図書館ということもあって、王族と最上位貴族である公爵家についてはチェックしていた。
侯爵家に関してはまだ確認していなかったのよね。
だから当然ヴァニタス家と言われてもわからないわけだけど。
もちろん、もし私がトルス国の貴族であるならば国内の主要な貴族家のことがわからないのは問題だ。
不勉強な令嬢のレッテルを貼られても仕方ないだろう。
しかし私は最近この国に来たばかりの異世界人。
しかも望んだわけでもなく誘拐状態で。
これから少しずつ学んでいくつもりではあるけれど、今日のお披露目ではそこまでを求められていなかった。
それに、お披露目までは人目につかないように生活していたし、当然他の貴族とのつき合いもないから必要に迫られていなかったせいもある。
正直な話をすると特別お近づきになりたいわけでもないのだけど。
この世界、女性の身でありながら働いているというだけでかなりの偏見を持たれそうだし、その状態で社交界に出ようものなら何を言われるか。
まぁ、面倒なつき合いを我慢して続けなければならないのなら、大人しく仕事をしている方がよほどマシだと思ってしまうのは社会人としてどうなのか、という気はするのだけどね。
なんてことを、つらつらと考えながらレイラ嬢を見る。
彼女は自分が侯爵令嬢と知れば私が何らかの反応を返すと思っているのか、扇で口元を隠し、見下すような視線で私を見ていた。
というか、そもそも侯爵家の令嬢なら聖女よりも序列は下。
私は聖女ではないとはいえ、今日のお披露目によって陛下からは暗に礼を失するなと周知されたことになる。
それなのにあえて自分から声をかけてきたということは、彼女は私に対して含む所があるのだろう。
「お会いできて嬉しいですわ。聖女様が降臨されたというのは知っておりましたけれど、その聖女様にくっついてきた女性についてはどんな方かわかりませんでしたもの」
いつまで待っても私から思うような反応が返らないことに痺れを切らしたのか、レイラ嬢が話を続けた。
『くっついてきた女性』
その言い方だけでも彼女が私に対してネガティブな感情を持っていることがわかる。
というか、今日初めて会った人に敵意を向けられる覚えはないんだけど。
「その上たびたびベラルド卿のお手を煩わせているとか」
ん?
それは仕事をさせて欲しいと言ったことだろうか?
それともドレスの手配やエスコートをお願いしたこと?
レイラ嬢は扇をパチリと閉じるとそれを私に向け、いかにも嘆かわしいとでもいうように続ける。
「聖女様のおまけにもかかわらずお忙しいべラルド卿に無理を言うなんて、常識の欠片もありませんのね」
ええ!?
たしかにべラルド卿にはいろいろと無理を言ったと思うけど、それをあなたに指摘されるいわれはないよね?
しかも扇で人を指さすのは失礼な行為では?
驚いている私をどう思ったのか、レイラ嬢は嘲るような表情でさらに言葉を続けるために口を開いた。
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