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名前

 べラルド卿に連れて行かれたのは王宮の中にある客室だった。

 客室といっても日本のホテルのようなワンルームではなく、言ってみればスイートルームのようなところだ。

 部屋の扉を開ければ応接間があり、さらに先の扉を隔てた向こうに寝室があるのだろう。

 バスルームも併設されているらしく、食事さえどうにかできれば部屋を出ずに生活することも可能だった。


「取り急ぎ用意させた部屋ですので、何か不都合がありましたらこちらの侍女に申しつけてください」


 べラルド卿は部屋の隅に待機していた女性を私の専属侍女として紹介してくれる。


「リリアと申します。よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしく」


 私自身が聖女のおまけ状態なのでいったいどういう立ち位置で返事をすればいいのかわからないところだけど、とりあえず彼女よりは立場が上だろうと思っての返答だ。


 とはいえ、一般庶民の日本人としては誰かに命令するというのはハードルが高い。

 おそらく余程のことがない限り不都合を申しつけることはしないだろうと思った。

 

「まずはお茶を用意するように」


 べラルド卿の言葉にリリアが部屋を出ていく。


「現状の説明とあなたのことについて伺いたいのだが、良いだろうか?」


 応接間のソファに腰掛けたべラルド卿に相対するソファを勧められて私も腰を下ろした。

 優美な猫足のソファには繊細な刺繍のカバーが掛けられ、この客室が女性向けの部屋であることを示している。

 部屋の色味は全体的に落ち着いたクリーム色だ。


「どうぞ。お知りになりたいことは聞いてください」


 どちらにしろ私の生殺与奪権を握っているのはべラルド卿なのだから。


「まずはお名前をうかがっても?」

「新海なつめです」

「シンカイナツメ?」

「ああ……こちらの言い方ではナツメ・シンカイですね。ナツメがファーストネームなので」

「なるほど。ではシンカイ殿」


 唐突にカタコトの発音で名字を呼ばれ、すごい違和感を感じた。

 と、同時に自分がナチュラルにこの国の言葉を理解していることに今更ながらに気づく。


 もしかしてこれは言語チートというやつだろうか。

 異世界転移に伴って転移先の言語が自動的に翻訳される機能、あれだ。


 いや、助かるけども。

 というよりも、これで言葉がわからなかったらかなりの勢いで詰む。


「……差し支えなければ名前の方で呼んでいただいても?」

「あー……女性のファーストネームを呼ぶのは……」


 なるほど。

 親しい間柄ではない状態での名前呼びには抵抗があるということだろう。

 いたってまともな感覚だ。


 でもねぇ。

 正直カタコト発音での名字呼びは個人的にかなり居心地が悪い。


「私たちの国ではそれほど珍しいことではありませんので。できればそれでお願いしたいのですが」


 まぁ、日本でも親しくもない相手に名前呼びはされないけれどね。

 そんなことは言わなければわからない。


「そうですか。ではナツメ殿と呼ばせていただきます」


 べラルド卿がそう答えたところで、リリアが紅茶と茶菓子を乗せたティートローリーを押して部屋に入ってきた。

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