宰相の提案
「いえいえ、ベラルド卿にドレスを用意していただく理由がありませんので」
何を突然おかしなことを言い出すのか。
そう思って私は慌ててお断りをしたのだけど。
「王家からの支援を断るというなら、私が贈るドレスは受け取ってください」
そこまで言ってから一瞬口をつぐんで、その後ベラルド卿は続けた。
「今度の舞踏会は聖女様のお披露目です。同時にナツメ殿を紹介することになる。王家としては聖女様とナツメ殿の二人の待遇に差があると思われることは避けたいのです」
だから王家の支援を受けないのであればベラルド卿からのドレスを受け取るように、つまりそういうことなのだろう。
「そして申し上げにくいのですが、現在のナツメ殿の給金では聖女様と遜色のないドレスを仕立てるのは難しいかと」
ああ……。
つまり、花音ちゃんのドレスはかなり高級だということね。
王家が用意するドレスに匹敵するようなドレスを私が買えるわけがない。
そして私の手が届くレベルのドレスでは舞踏会に参加できないということ。
「ナツメ殿の気持ちには反すのは申し訳ありませんが、王家からの支援を受けるか私からのドレスを受け取るのかを選んでいただければと思います」
ある意味究極の選択だよね。
そう思ったところで一瞬リベルタ嬢の提案が頭をよぎった。
いやいや、それはそれでダメだ。
結局のところ、どの提案を選んでも私的には納得がいかないのだけど。
一番精神的に楽なのはベラルド卿のドレスだろうか。
「わかりました。では、ベラルド卿のお世話になりたいと思います」
「そうですか。良かった……」
私の返答にベラルド卿がホッとしたような顔をする。
「ただし、ドレスにかかった費用は分割でお返しいたします」
「いえ、必要ありません」
可愛くない返答をしているという自覚はある。
『ありがとう』と言って大人しくドレスを受け取れば良いのだろう。
しかし自分の面倒は自分でみるのが当たり前の生活をしてきた身としては、理由のない施しを受けるのに抵抗があった。
「では、ドレスの対価として私のお願いを一つ聞いていただくというのはいかがでしょう?」
「お願い、ですか?」
私が引かないと思ったからかベラルド卿が別の提案をしてくる。
「それはどんなお願いかによると思いますが……」
「先ほどナツメ殿が仰っていたリベルタ嬢の件を陛下へ進言しようと思っています。その際に女性が仕事に従事することについての意見を、実際に図書館の仕事をされているナツメ殿から聞かせていただきたいのです」
それは……いったい誰に対して話すのだろうか?
……いや、わかってるよ。
ベラルド卿が陛下に話す時に同席しろと、そういうことだよね。
ええー……。
この国一番の権力者と面談しないといけないの?
しかしそれがドレスの対価と言われれば頷くしかない……よねぇ。
「わかりました。必要があればいくらでもお話しさせていただきます」
「ではそれでお願いします」
ベラルド卿が爽やかに微笑む。
……何だかしてやられたような気がするのはなぜだろう?
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