賽を投げる
リベルタ嬢の仕事の話と舞踏会の話の後は、それこそ他愛のない話を楽しんで花音ちゃんたちとのお茶会は終わった。
そして私には舞踏会に際してのエスコートとドレスの問題が残ったわけだけど。
「グノシー伯、ドレスショップに心当たりは無いですか?」
「そうだのぅ。うちの奥が懇意にしているショップだとナツメ殿向きのドレスはないと思うんじゃ」
「ドレスに向き不向きが?」
「ナツメ殿はうちの奥よりも若いからじゃよ」
なるほど。
たしかに、ショップによって対象とする年代は違うのかもしれない。
私だって十代の若い子向きのショップで売っているドレスを着たら全然似合わないだろう。
となると三十代女性向けのショップを探さなければならないんだけど……。
まったくツテが無いわ。
さらに言えば、既婚と未婚だと違ったりするのだろうか。
日本の場合は振袖は未婚の子しか着れないしね。
頼りの綱の花音ちゃんもリベルタ嬢もぴちぴちの十代だから、私は彼女たちと同じようなドレスは着れないということだ。
「情報誌でもあればいいのになぁ」
いつもの場所で書籍の修復をしながら途方に暮れてぼやいていると、不意に背後から声がかかった。
「情報誌というのはどんなものですか?」
「べラルド卿。お疲れさまです」
ついつい職場で上司と遭遇した時のように答えてしまう。
「何かお悩みのようですが、私でお力になれることはありますか?」
たしかに悩んでいる。
しかしべラルド卿にドレスのことを聞いてわかるものなのかは疑問だった。
だって男性だしね。
あ、でも、女性にドレスをプレゼントすることもあるだろうから知っているかもしれない。
そう思いつつ、ここでべラルド卿に会ったのならまずはリベルタ嬢のお願いの件を伝えなければという思いに駆られた。
「べラルド卿、今お時間はありますか?」
「ナツメ殿のためであればいくらでも」
……口が上手い。
微かに微笑みながら、まるで私が特別かのように言う物言いに鼓動が速まる。
「実は先日リベルタ嬢にある相談をされたのですが……」
そして私はリベルタ嬢の悩みをかい摘んで説明した。
「なるほど。リベルタ嬢は結婚ではなく仕事がしたいと」
「私はこの国の文官のお仕事に詳しくありませんが、王太子妃教育を受けられたリベルタ嬢であればかなりの知識をお持ちだと思います。その知識を元に経験を積めば相当な戦力となるのではないでしょうか?」
私の言葉にべラルド卿がしばし沈黙する。
彼の頭の中では様々な検討がなされているのだと思えた。
「たしかに、他のご令嬢とは違いリベルタ嬢が身につけた知識は相当なものだと思います。今まで王太子妃に選ばれたご令嬢が婚約解消となった例が無かったので思いつきませんでしたが、ナツメ殿が言うように彼女の実力はかなりのものでしょう」
良かった。
リベルタ嬢の努力を理解してくれる人がいた、それだけでもだいぶ違う。
「……今のお話、一度私が預かってもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。リベルタ嬢もそう望んでいますし」
これでリベルタ嬢に頼まれたお願いは果たせたよね?
べラルド卿がどのように検討するのかはわからないけれど、私ができるのはここまでだと思えた。
彼の様子を見る限りまったく可能性がないというわけではないようだけど……。
いずれにせよ賽は投げられた。
どのような結論が出るかはわからないけど、できればリベルタ嬢の希望が叶う形になるといいなと思う。
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