公爵令嬢の希望
「ナツメ様は今王宮図書館でお仕事をされていると伺いました」
それはたしかにそうだ。
……というか、その前に自分の名前を『様』付きで呼ばれることに違和感を感じるわ。
そういう意味では私の『リベルタ嬢』呼びもいいのかどうか疑問ではあるのだけど。
ということで、まずはリベルタ嬢に呼び方の変更をお願いしつつ、なぜそんなことを聞いてきたのかを質問する。
「トルス国では女性は家に入るものなので表で仕事をする方はいません」
うん、ベラルド卿もそう言ってたね。
「そういうものだと教えられて育ったので今まで疑問に思うこともなかったのですが……。ナツメさんがお仕事をされていると聞いて私もそうしたいと思ったのです」
「そうしたいというのは、リベルタ嬢も外で仕事をしたいということ?」
「そうです。私は今まで王太子妃になるために多くの時間を費やしてきました。知識でいえば他の文官にも劣らないと自負しております」
他の女性とは違い、王太子妃、つまり後の王妃は内向きのことだけをこなしていれば良い立場ではないのだろう。
それこそ他国との外交から始まり王にもし何かあれば代わりに国の運営に携わる必要も出てくる。
それだけのことをこなそうとするのであれば当然多くの知識が必要となるだろうし、簡単に身につくものでもない。
リベルタ嬢は相当な努力を重ねてきたはずだ。
「しかし王太子妃ではなくなり他の家へ入るのであれば、私が今まで苦労して身につけてきたことはあまり意味をなさなくなります」
理解のある家に入れればそれなりの裁量を与えてもらえるかもしれないけれど、そうでなければ飼い殺しのようなもの。
「それでは私はいったい何のためにずっと頑張ってきたのでしょう?」
他の貴族の子女たちが当然のように得てきた子ども時代の遊びもリベルタ嬢は王太子妃教育のためにあきらめてきたのかもしれない。
彼女の目には悲痛の色が見え隠れしていた。
「リベルタ、ごめんなさい」
「カノン、あなたのせいではないわ」
結果的にリベルタ嬢から王太子妃の座を奪うような形となってしまった花音ちゃんが謝ると、それは違うとばかりにリベルタ嬢が首を振る。
「カノンが相手ではなくてもこういったことがあったかもしれないし、何よりも殿下が婚約解消を望むのであれば私に拒否権はないのだから。あなたの気持ちも確認せずに勝手なことをと思っていたけれど……まったく気がないわけではないのでしょう?」
え?
そうなの?
いつの間に花音ちゃんは殿下に好意を持つようになったわけ?
私の疑問を他所に、二人は「私が悪い」「いや私の方が」と言い合っている。
そのやり取りキリがないよー!と思いつつ私は二人を見守っていたのだが。
というか、やはり一番悪いのは殿下でしょう。
たとえリベルタ嬢との関係が政略的な婚約だったとしても、婚約者を大事にできないようではダメだ。
『花音ちゃんが相手ではなくてもこういうことがあったかもしれない』と言われている時点でアウトだと思う。
「つまり、リベルタ嬢は今まで得てきた知識を活かして仕事をしたい、そういうことかしら?」
「そうです」
彼女の身につけてきた知識や技能はおそらくそこら辺の文官よりもよほど勝るものだ。
たしかにこのまま埋もれされておくのはもったいないと思う。
言ってみれば即戦力なわけだし。
しかし、とはいえ私には何の権力もないからなぁ。
むしろ権力だけで言えば花音ちゃんの方が上だ。
何と言っても彼女は『聖女様』なわけだし。
「申し訳ないけれど私にはなんの権限もないのよ。今回私が仕事を得られたのはひとえに私が異世界から来た者であり、自力で生きていく必要があるから。希望を通す権限で言えば花音ちゃんの方が可能なのではないかしら?」
少なくともトルス国では私は年齢的にも誰かと縁ずくことも難しいだろうしね。
「私では無理なんですよ。聖女には政治的な権力はないし、殿下に頼もうにも殿下自身が女性は家に入って男性に守られていればいいという考え方だから」
ああー……たしかに。
先日の殿下の姿を思い出して、花音ちゃんの言っていることにものすごく納得してしまった。
「ですので、ベラルド卿にお願いできないかと思ったんです」
「ベラルド卿に?」
突然リベルタ嬢の口からベラルド卿の名前が出てきて、私は疑問を顔に浮かべる。
「ええ。ナツメさんのお仕事に関してはベラルド卿が手配されたと聞きました。であればベラルド卿は女性が仕事をすることに関して理解があるのではないかと思うのですが……」
殿下よりは柔軟に考えてはくれそうだけど、どうかな?
何といってもリベルタ嬢は私と違ってこのトルス国の公爵令嬢。
そんな彼女が仕事に就くことを良しとしてくれるかは疑問だった。
私とは状況が違いすぎるしね。
「ナツメさん、お願いします。ベラルド卿にお願いしてみてくれませんか?」
「リベルタ嬢はベラルド卿にお会いすることはできないの?」
私の質問に対してリベルタ嬢はとんでもないとばかりに首を振った。
「ベラルド卿は常にお忙しい方ですもの。個人的な相談でお声をかけるなんてとてもできません」
ベラルド卿って、公爵令嬢でかつ王太子の婚約者であるリベルタ嬢ですら簡単には声をかけられないような立場なの!?
いや、今ではもう婚約者ではないからなのかも?
それでも公爵令嬢であることに変わりはないよね。
……でもベラルド卿、たびたび私の仕事場にやってきてはお茶して行くけど!?
密かに心の中で混乱に陥りつつ、リベルタ嬢のあまりに必死な様子に私は頷いたのだった。
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