王子の来訪
「なぜだ?」
本当、いったいなぜこんなことに?
目の前に座る金髪碧眼のイケメンから発せられた言葉に、私は心の中で同じようなことを呟いた。
今日もいつも通り、例の高位貴族しか立ち入れないあのスペースで業務に勤しんでいたところに突然現れたこの男。
正直初対面での印象も良くなかったし、相手の地位を考えればできる限り接触したくない相手でもある。
「なぜカノンは私の気持ちをわかってくれないんだ?」
苦悩するかのように言うその顔は鑑賞する分には申し分ない。
しかし呟いている内容が問題だった。
「ソレイユ殿下、それは私に言うよりも聖女様に直接言った方がよろしいのではないでしょうか?」
今私の目の前で頭を抱えている人物。
その人物こそが、この国の王太子であるソレイユ・トルス殿下その人だ。
「もちろんカノンには私の気持ちを伝えてある。しかし私がどれほどカノンのことを想っているのか、わかってくれないんだ」
まあねぇ。
いくらこの国の王太子殿下であっても、今まで何年も婚約していた相手と婚約解消するから自分と結婚してくれ、だなんて、普通は頷けないに違いない。
以前花音ちゃんからその話を聞いた時にもびっくりしたものだが、その話のどこがいけないのかを理解していない本人を目の前にすると驚きも倍増だ。
花音ちゃんも大変そう……。
そして元婚約者のご令嬢もきっと苦労してきたのだろう。
もしかしてご令嬢本人は案外せいせいしたと思っていたりしないだろうか。
いや、しかしこのタイミングでの婚約解消は今後のことを考えるとやはり困るだろう。
それに王太子妃になる予定だったのなら、きっとその立場に相応しくなるための勉強もしてきたのだろうし。
そんなことを心の中でつらつらと考えてしまうのは私が目の前の現実から逃避したいからなのかもしれない。
そしれにしてもなぜこの王太子は私のところに相談に来るわけ?
本当、疑問でしかないわ。
話を聞いている限り本人に悪気が無いのがいいのか悪いのか。
本当にただ単に花音ちゃんのことが好き、だから結婚したいと言い出したように見えるのだ。
一目惚れ?
一目惚れなのか?
疑問ではあるけれど、とりあえず本人が自分の気持ちに正直だということはわかる。
正直すぎてこの王太子でこの先国が大丈夫なのか心配ではあるのだが。
「殿下、そもそも殿下には婚約者様がいらっしゃったと思いますが?」
気になったので一応、聞いてみた。
「もちろん、元婚約相手には正直に私の気持ちを伝えて、謝罪の上婚約解消の許しをもらっている」
ああ。
そこはちゃんと筋を通したのね。
元婚約者のご令嬢が納得したのかどうかはわからないけれど。
あと、王太子の婚約ともなれば政治的なあれこれもあると思うんだけど、そこら辺はいいのだろうか?
王太子が惹かれた相手が聖女である花音ちゃんだから、政治的なものを抜きにしても引き留めたい相手ということで問題ないのかも?
国としても聖女が王太子に惹かれて、二人が相思相愛になり国を盛り立てていってくれるというのは願ったり叶ったりなのかもしれない。
とはいえ、現時点では花音ちゃんが王太子に惹かれているとは思えないけどね。
「それで、殿下はいったい私に何をお望みなのですか?」
話が進まないので自分から切り出してみた。
「お前に相談すれば悩みごとが解決すると聞いた」
ん?
どういうこと?
「……誰がそんなことを仰っていたのでしょうか?」
「レグルスとカイルだが?」
……犯人は宰相息子と騎士団長息子かー!
そういえばあの二人、もしかしなくても王太子の側近候補ってことよね?
だって宰相と騎士団長の息子だもんね。
普通に考えれば将来の国王、つまりこの王太子殿下と一緒に国を運営していく立場だ。
なんてことだ。
まさかこの前うっかりと進路相談に乗ってしまったから今のこの状況があるなんて。
そう思うと、私も自分の頭を抱えるしかないのだった。
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