向き不向き
「同じクラスに騎士団長の息子がいるんですが……」
レグルスくんの話を聴くぞ、と思って向き合ったところで、その話題が彼自身のことではないところへ飛んだ。
「あいつは俺なんかよりもずっと宰相の仕事に向いている」
騎士団長の息子?
ということは、その子は騎士団長の仕事にも宰相の仕事にも向いているということだろうか?
「そう気づいた時に、このまま俺が父の跡を継ぐのが本当にいいのかと思ったんです」
悩ましげなレグルスくんの話を聞いたところ、彼の言うことはある意味正しいと思えた。
騎士団長の息子さんはカイル・アルファンというらしい。
彼は体を動かすよりも勉強の方に興味があるらしく、レルグスくんとは逆に騎士団長の仕事に就くことに対して悩んでいるとか。
つまり、二人は自分ではなく相手の方こそがそれぞれの家の仕事に就いた方がいいと思っているということだ。
なるほど。
たしかに、仕事は人によって向き不向きがある。
自分に向いている仕事の方が当然効率は上がるし、より良い結果につながるだろう。
嫌な仕事となれば取り組む側も嫌々やることになりかねない。
……と私なんかは思ってしまうのだけど。
それは私が日本で生まれ育っているから。
この世界ではそういった考え方は認められていないんだろうな。
だからこそ彼は悩んでいるのだろうし、また、そのことを父親に話したところで理解してもらえないと思っているのではないだろうか。
そうだなぁ。
ベラルド卿はわりと柔軟な思考を持っていそうだけどね。
イレギュラーな存在を受け入れられるということは、それだけ既存の常識に縛られない思考回路を持っているということ。
私という聖女のおまけを違和感なく受け入れてくれたあたり、彼の頭は柔らかそうだ。
ただ、それもあくまでイレギュラーな存在だったからこそなのかもしれない。
家の仕事を継ぐ、というのがこの国での常識だとしたらそれを覆すのは難しそうだ。
少しこの世界にいただけでもわかる。
仕事は家の格や立場すら決めるもの。
おいそれと変えられるものではないのだろう。
でも、だ。
たとえそうであっても逃げているだけじゃ解決しないんだよねぇ。
「正直に話してみるのが一番だと思うけど?」
あっさり言ってみるとレグルスくんが驚きに目を見開いた。
「言えないから悩んでいるんですけど」
まぁそうだろう。
しかし今のままの膠着状態では話は進まない。
どちらかが歩み寄る必要があるが、この場合ボールを持っているのはレグルスくんだと思った。
「もちろん、ただ宰相になりたくないと伝えるだけではダメよ」
「どういうことですか?」
「そうね……今の学園では成績表とかは出るのかしら?」
「学期ごとに出ます」
そこら辺は日本と一緒ね。
であれば客観的な資質の証明になるかもしれない。
「ちなみにその成績表において、レグルスくんのそれぞれの評価はどんな感じ?」
それとともにカイルくんが家門の仕事に対してどう思っているのかを聞いた。
結論としては、レグルスくんは技能教科である剣術と武道の成績が突出して良く、逆に宰相の仕事をするに当たって必要だと思う主要教科の成績は普通レベルだった。
「カイルも自分がこのまま騎士団長の職を継ぐことに関しては悩んでいるようです。特に騎士団は実力主義な面があるので、実力が伴わないと団員は指示を聞かなくなってしまいますし」
それはそうだろう。
騎士団といえば時に命懸けで戦うことも必要とされる職。
トップに立つ人物に実力がなければ下が言うことを聞かなくなるのも道理だ。
「なるほど。であれば、今度成績表を持ってカイルくんと一緒にいらっしゃい」
私の言葉にレグルスくんが理解できないとでもいうような表情をする。
「べラルド卿を説得するのであれば無策では無理よ。でも彼が納得するような理由があれば違うかもしれない」
もし検討の余地ができれば可能性はある。
「騎士団長がどんな方かはわからないけれど、カイルくんも悩んでいるのであれば一緒に考えた方がいいでしょう? 私は基本的にいつも図書館で働いているから、二人の都合の良い時に来るといいわ」
私の言葉に、レグルスくんが頷いた。
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