悩みとは
「そうね。まず言えることは、ベラルド卿はあなたのことをとても心配していたということね」
私がそう言うとレグルスくんが弾かれたように顔を上げた。
「そんなはずは!」
「ないって?」
私の言葉を否定するレグルスくんに対してこちらから問いかける。
「それは……」
私の言葉に驚くということは、この親子はコミュニケーションが足りていないということだ。
お互いが何を思い何を考えているか、それは言わなければわからない。
「あなたはじぶんの気持ちをベラルド卿に理解してもらえるようにちゃんと伝えたのかしら?」
「父は俺の言葉なんて聞いてくれません」
そう言ったレグルスくんはかなり頑なな表情だ。
おそらく私自身が年的にベラルド卿に近く、どちらかという親目線だからかベラルド卿寄りの感覚になっているのかもしれないけど。
言葉を尽くさなくてもわかって欲しい、というのは難しいよねぇ。
「差し障りなければお二人の間の問題を聞いても?」
私はその理由をだいたい知っている。
今日ベラルド卿から聞いたばかりだからだ。
ただ、ここで私からそのことに触れれば、おそらく彼は心を閉ざすだろう。
誰だって自分の知らないところで自分の話をされるのは嫌だろうから。
ましてや私はレグルスくんにとっては今日初めて会った相手なわけだし。
「まったく関係のない相手の方が話しやすい場合もあると思うわよ?」
私の呼び水のような言葉にうつむいていたレグルスくんが顔を上げた。
「俺は宰相よりも騎士になりたいんです」
うんうん。
それはベラルド卿も言っていたわね。
「仕事を家として継いでいくというのは理解しています。でも俺は宰相にはなりたくない」
「なぜなのか理由を聞いても?」
「俺には向いていないと思うからです」
私にしてみれば苦手意識とかで自分に制限をかけてしまうのはもったいないなと思う。
できないと思っていたことができるようになったり、苦手だったことがやり続けるうちに得意になることだってあると思うからだ。
だけどそれと同じくらい、好きなことややりたいことがあるのならそちらの方面へ進んだほうがいいと思う気持ちもある。
好きこそものの上手なれ。
そんな言葉があるくらい、好きなものを突き詰めていく情熱や熱意は何にも勝る能力だと思うからだ。
だから、彼が宰相の職を継ぎたくない理由が『苦手』だからなのか、それともそれ以上に『騎士になりたい』という思いからなのかは重要だと思った。
私は自分用に入れた紅茶のカップを手に取ると一口飲む。
その間に考えをまとめながら、レグルスくんの様子を観察した。
彼は彼でいまだ自分の中で葛藤しているのかもしれない。
眉間に刻まれた皺がそれを物語っている気がした。
「それに……」
さて何て答えようか。
そう思って考えを巡らせていると、レグルスくんが口を開いた。
「それに、俺よりも宰相の仕事に向いている奴がいるんです」
……ん?
別の理由が出てきたぞ。
そう思いながら彼の言葉を待つと、こちらを見るレグルスくんと目が合った。
彼の目は真剣だった。
決してただ単に嫌だとか苦手だとか、それだけではない苦悩が透けて見えて、私はその理由を聴くべく姿勢を正した。
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