子息の訪問
結局のところべラルド卿は紅茶一杯分の時間を過ごした後に去って行った。
「たしかに『話す』は『手放す』ですね」
そう言って微笑んだ顔がかなりの威力だったことは言うまでもない。
人の事情に立ち入る趣味はない、ないんだけどね。
そう思いながらも気になってしまうのは、やはりべラルド卿にはかなりお世話になっているからだろう。
何と言ってもこの国に来てすぐ、まともに私を助けてくれたのは彼だけである。
もちろん、リリアやグノシー伯はまた別だ。
「グノシー伯、べラルド卿のご子息について何か知っていますか?」
その日の仕事終わり、私はどうしても気になって聞いてみた。
「べラルド卿の息子……ああ、レグルスのことか」
どうやらグノシー伯はご子息と会ったことがあるらしい。
「あいつはなぁ。悪い奴ではないんじゃが、べラルド卿とは性格が全然違うからのぅ」
いわゆる、親子でも似ていなタイプということだろうか。
あれは不思議なもので、親子なのに他人よりも遠いのでは?と思うほど理解できない時がある。
一言で言ってしまえば相性なんだろうけど、合わないからといって逃げられないのが親子関係だ。
そんなことを話しながらさあ帰ろうか、と思った時だった。
図書館入り口横の棚からはみ出す影が。
すでに閉館時間は過ぎ、後は入り口を閉めたら帰宅、そんなタイミングだ。
明らかに怪しい人影よね。
ただし、私にはその人影に見覚えがあった。
忘れもしない今日の昼間に見たばかりなのだから。
「えーっと……レグルス……くん?」
『卿』と呼ぶには相手が幼すぎるし、かといって『殿』というのは私が呼ぶにはふさわしくない。
消去法で『くん』をつけたわけだが……敬称って難しい。
そして私の呼びかけに、その人はビクッと体を揺らした。
そろっと振り返った彼の髪の毛は銀髪。
こちらを見つめる瞳はサファイヤブルーだ。
あらすごい。
外見はとても似てるわ。
十五歳という若さのせいかまだどことなく少年らしい雰囲気をまといながら、その体躯はほぼ成人男性だ。
何というか、アンバランスなものを感じる。
体はでき上がっているのに精神は追いついていない、みたいな。
「グノシー伯にご用事ですか?」
ひとまず彼が誰を待っていたのかを確認するためにも私は問いかけた。
「ん? わし? そんなわけなかろう」
なぜ。
私は息子くんに問いかけたのになぜグノシー伯が答えるのー?
「いや、彼が誰を待っていたのかはわからないでしょう?」
「いやいや。わしとはほとんど面識がないのじゃから、きっとナツメ殿を待っていたんじゃろう」
それを言うのなら私とは初対面ですけど?
昼に私が一方的に見かけただけで。
そんな私たちのやりとりを気まずげに見ていたレグルスくんは、おもむろに私に向き直ると口を開いた。
「あの、あなたに聞きたいことがあるのですが……」
えー……。
用事の相手は、私でしたか。
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