家門としての仕事
「最近息子が何かにつけて反抗してくるようになりまして。私自身は父親としてできる限り息子を理解したといは思っているのですが、それがなかなか難しく」
べラルド卿としては問題の解決に通じる糸口がもはや見つからなくなっていたのかもしれない。
ぽつり、とそうこぼした。
いや、やはり私がこの世界の人ではないからか。
宰相という、いわばしがらみまみれの彼にしてみればそこが大きいのだろう。
「息子さんはおいくつなのでしょうか?」
「十五歳です」
かなり大きく見えたけど案外まだ若いのね。
というか、十五歳といえば日本ではいわゆる反抗期の時期では?
結婚したこともなければ当然子どもも持ったことのない私でも知っていることだ。
いくらこちらでの成人が十五歳だったとしても、体の成長にかかる時間に大差はないと思うのだけど。
それとも世界が違えばそこも違うのか……。
そんなことを考えながら私はべラルド卿の言葉を待った。
「我が家門は代々宰相の位を戴き王家に仕える一族です。息子は当然私の跡を継がねばならないのですが、ここにきて急に騎士になると言い出しまして」
ああー……。
そういえば、この国の貴族は仕事を家ごとに引き継いでいくんだっけ。
グノシー伯がそう言っていた。
彼の場合は自身の子がいないから親族に継いでもらわないといけないとか。
「そう言い出したことに何かきっかけは?」
「特には。ただ、息子はどちらかというと昔から体を動かす方が好きでしたが」
なるほど。
息子さん自身を知らないから何ともいえないけれど、いわゆる就職先を親が反対しているようなもの?
「通っている学園が来年から専門科に分かれるのでそのせいもあるかと」
「学園、ですか?」
年齢的に考えるといわゆる高校みたいなところだろうか。
「ああ。ナツメ殿はご存じないですね。トルス国では十五歳から十七歳までの貴族子息と子女は国の運営する学園へ通わなければならないのです」
つまり、十五歳から通い始め、十六歳で専門科に進んだのちに十七歳で卒業と、そういうことね。
やはりイメージとしては日本でいうところの高校だろう。
「宰相になるには文官科に進まなければならないところを騎士科に進学したいと言ってまして」
うーん……。
お父さん、悩んでますね。
……というか、子どものことでこれだけ悩んでくれるのであれば十分に良いお父さんなのでは?
「べラルド卿には他にお子さまは?」
家門で仕事を引き継げばいいのであれば、何人か子どもがいるならさっきの彼である必要はないだろう。
そう思っての質問だったのだけど。
「私は妻を早くに亡くしているので、子どもは一人だけですね」
なんと。
まさかの父一人子一人ですか。
でもベラルド卿のような人であれば後添い候補なんてたくさんいそうなものだけど。
「トルス国の成人はたしか十五歳でしたよね?」
「はい」
成人と子どもの反抗と何の関係があるのかと言われそうだけど。
そもそも成人ということは自分の将来は自分で考えていけるはずの年齢。
「お話を聞く限り、べラルド卿はきちんとご子息と向き合っていると思います。であればご子息も考えなしに騎士になりたいと言っているわけではないのでは?」
「と言いますと?」
「彼には彼なりに理由があるのではないかと」
「しかし何度聞いてもただ『騎士になる』と言うばかりですので」
ううーん。
もしかすると息子さんは自分の気持ちを言葉にするのが苦手なタイプ?
「追いつめれば追いつめるほど頑なになってしまうのではないかと思うのですが……」
ふむ。
つまるところ、まずは息子さんの理由を知る必要があると。
「科の専攻を決定するのはいつですか?」
「来月ですね。新年度が来月から始まりますので」
まだ一ヶ月あるじゃないの。
親の心子知らずになるのもいけないけど、子どもの意思を親が曲げさせるのもまた良くない。
結局のところ残された道は話し合うしかないわけだけど。
まずはその話し合いの席に着かせることが大変というわけね。
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