確定事項
……というか、私は今人の心配をしてる場合ではないだろう。
殿下御一行の去った後に残されたのは、この場の片付けを任されたのであろう新米と思しきローブの青年が何人か。
いや、どうするの。
どうしたらいいの?
というか、この状態で放っていくってどういうことよー!
当然、私の心の叫びなど誰にも気づかれない。
白い床の魔法陣の上にへたり込むアラサー……いや違った。
そうだ。
つい最近誕生日を迎えて三十五歳になったんだった。
……魔法陣の上にへたり込むアラフォー……何か地味にへこむわ。
そう。
三十四歳までは四捨五入してアラサーと言えばいいけど、三十五になった途端アラフォーというのは……なんというかちょっとツラい。
別に歳を取ることが嫌とは思っていないけど。
いやいや、四十歳まではまだ五年ありますから!と言いたくなるのは何でだろう。
何とも説明し難い女心に思いを馳せている内に、とうとう新米ローブたちすらいなくなってしまった。
いやもう本当。
どうするの?
ほとほと困って、とはいえこのままここに座り込んでいたとしても現状は何も変わらないことが分かりきっていたから、仕方なく私は俯いていた顔を上げた。
と、そのタイミングで声がかかる。
「放り出すような対応となり申し訳ない」
顔を上げて見た先に。
スラッとした長身。
銀髪に理知的な光の宿るサファイヤブルーの瞳。
いわゆる容姿端麗な男性がこちらに手を差し出していた。
ん?
この人はたしかさっき殿下の近くにいた位の高そうな男性の一人では?
そう思いながら、差し出された手が自分のためだということを理解するのに数秒の時間を要した。
「……あ……ありがとうございます」
お礼を言って手を添えると彼の大きな手がグッと力を入れて私を引っ張り上げる。
この男性は殿下御一行と一緒にさっきこのホールを出て行ったはず。
わざわざ戻ってきたということだろうか?
「あなたは聖女様に巻き込まれてこちらの世界に来てしまったのではないかと思うのだが……」
落ち着いたテノールボイスが聞こえる。
声が、良い。
もちろん顔も良い。
何というか、顔や声がいいのは得だなと思う。
なぜなら先ほどの荒れた感情が彼の声を聞いているうちに落ち着いてきたからだ。
人の心を穏やかにする声ってあるのだろうか。
それともただ単に好みの問題か。
そんなことをつらつら考えてしまったのは『聖女に巻き込まれてこちらの世界に来た』と言われてしまったからだ。
つまり。
異世界転移確定、である。




