聖女の本音
「で、急に結婚なんて言われても無理ですって答えたら、今度は『何が不満なんだ?』って言うんですよ」
信じられます?と言う花音ちゃんの目が据わっている。
「私と結婚すれば何も不自由はさせない。いずれこの国で一番高位の女性になれるんだぞ、ですって」
声真似をするようにそう言って彼女は眉間に皺を寄せた。
まぁ、たしかに。
あの王子が王太子だというのであれば次に王位を継ぐのは彼ということだ。
そうなれば必然的に王太子の妻、つまり王太子妃の位にいる者が王妃となる。
王妃ともなれば国王に次ぐ地位だしね。
「きっと女性を自分の附属物としか思ってないんですよ」
彼女が不満に思う気持ちはよくわかる。
日本でも昔は男性が外で稼いできて女性が家を守る、みたいな考えだったと思うけど。
言ってみればこの世界はその考え方に近いのだろう。
女性は内向きの仕事のみ許されて表に出るような仕事をしている人はいない、そのことからも想像できた。
でも男女平等の名の下に男性と同じだけの仕事を求められている世界から来た私たちにとっては違和感ありありなのだ。
特に花音ちゃんの世代は男女共働きは当然と考えている人の方が多いだろうし、王子の言葉には納得できないだろう。
「それに、相手の気持ちに縋るだけの関係って怖くありません?」
「どういうこと?」
「だって、仮に結婚したとして王子が私をいらないって言い出したら途端に路頭に迷うんですよ!」
大真面目にそう言った彼女に思わず苦笑が漏れる。
「さすがにそんなことはないと思うわよ」
「何でですか?」
「まず一つは、あなたがこの国にとって絶対的に必要な存在である聖女であること」
どうしても必要で異世界から呼び寄せた聖女を国が放り出すとは思えない。
「もう一つは、一国の王子が一時でも自身の妻だった者を離縁によって路頭に迷わせるなんて恥だと考えるからよ。まぁ、もし花音ちゃんの立場が寵妃のようなものだったらちょっと心配だけど」
それでもその後暮らすのに困らないくらいは補償してくれるだろう。
「そういうものですか?」
「おそらくね」
「でも、やっぱり私は自分の足で立っていたいんですよね」
ここら辺の考え方は最近の子らしいといえばらしいのかもしれない。
私の周りでは早く結婚して仕事を辞めたいと言っていた子も一定数いたけど。
「その辺りは価値観の違いだからね……」
相手が王子ともなるとその違いを理解してもらうのは難しいかもなぁ。
そんな風に思っていた私の耳に、花音ちゃんの聞き捨てならない言葉が飛び込んでくる。
「しかも婚約者がいるっていうんですよ」
ん?
それは誰に?
「もちろん、王子にですよ」
私の表情から疑問を読み取ったのか花音ちゃんが答える。
よく気のつく子だ。
「なんでも、王子には幼少期に決められた婚約者がいて、そのお相手はこの国の公爵家のご令嬢なんだとか」
「え? じゃあ、もし王子と花音ちゃんが結婚とでもなった場合、その公爵令嬢はどうなっちゃうの?」
「この国は一応一夫一妻制みたいなので、婚約破棄になるんじゃないですか?」
婚約破棄。
普通に考えてこのタイミングでの婚約破棄はその公爵令嬢にとっては事件なんじゃあ……?
今から新たな婚約者を探そうとしても、良い人にはすでに相手がいるだろう。
「ちゃんとした婚約者がいるのに安易に妻になればいいだなんて言えちゃう神経が信じられないんですよ」
「普通は先に婚約破棄をして、その上で花音ちゃんにアプローチすべきところよね」
と言いつつも、王族ともなると簡単にはいかないのかもしれないけど。
花音ちゃんにフラれるかもしれないし、そうなったからといって公爵令嬢との婚約をまた戻すわけにもいかないだろうし。
「それに、好きでもない相手とは結婚したくないです」
そりゃそうだ。
まったくもってまともな感覚だと思う。
聖女がいったいどういう子なのか心配していたけど、花音ちゃんはとてもしっかりした子だ。
この世界にたった二人だけ、日本のことを話せる相手がいたことに私も安堵を覚えたのだった。
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