本当の聖女
「あの……」
さっきまでは威厳さえ漂うような佇まいだった聖女が急に困ったような顔になる。
「はい。なんでしょう?」
違和感を覚えたものの、この場で彼女に対して少しでも変な対応をしようものならすぐにあの近衛騎士が飛んできそうだ。
「その……」
そしていったいどうしたのか彼女はやけに話しづらそうだった。
「何か気になることがあれば何でも仰ってください」
とりあえず話が始まらなければ何もわからない。
ここでの立場は聖女とただのおまけではあるが、日本であれば女子高校生とおばさん。
若者の悩みならできる範囲で相談にのってあげたかった。
「ここには私たちしかいないので、楽にしてもいいでしょうか?」
一気に、思い切ったように言われて一瞬面食らう。
『楽にする』とはいったい?
そう思ったものの、つまりは日本でのように接してもいいかということだと思った。
「もちろんです。あなたの言うことは私しか聞いていませんので、自由にどうぞ」
私の返答に彼女は体から力が抜けたとでもいうように椅子に背を預けた。
「良かったぁ。ここに来てからずっとマナーがどうとか、話し方がどうとかと言われ続けてたからしんどくって」
普通に話してみれば彼女は本当にどこにでもいるような女子高生だった。
おう……。
すごいわ。
話し方が変わっただけでさっきとは全然雰囲気が違う!
「あ! まだ自己紹介もしていませんよね? 私は井上花音と言います。高校一年生です」
「私は新海なつめ。しがない会社員よ」
高校一年生ということは彼女はまだ十五か十六。
こちらの世界では成人として扱われる年にはなるけれど、日本ではまだまだ庇護が必要な年齢だろう。
「できれば花音と呼んでほしいんですけど」
「……それは許されるのかしら?」
「……ですよねぇ。でも私の名前は『聖女』じゃないんですよ!?」
誰も彼もが「聖女様」「聖女様」って言うんです!
そう言って憤慨する彼女はやはりいたって普通の子に見える。
繊細そうな見た目のわりに性格は明るく逞しそうで少し安心した。
急に全然別の世界に強制的に呼び寄せられたんだもの。
気持ちの弱い子だったら心を病みかねない。
「じゃあ二人だけの時は呼ぶということでどう? さすがに表立ってそう呼んでると問題になりそうだから」
「それでも嬉しいです! 私もなつめさんって呼んでいいですか?」
「もちろん」
少し話しただけでも彼女が素直な子だということがわかった。
おそらくネガティブな気持ちを腹の中に溜め込むことは苦手なタイプだろう。
「それにしても、呼び寄せられたのが私だけでなくて良かったです。なつめさんがいるだけでも気持ちが全然違う」
そう言ってももらえるのであれば巻き込まれ事故にあったことも少しは報われるような気がした。
「あの後どうなったのかは聞いてもいいのかしら?」
召喚された神殿のホールから連れ出されていったっきり今まで会うことがなかったから、その間のことを知りたいと思った。
「むしろ聞いてくださいよ!」
話を振ったら彼女は思った以上の食いつきだった。
話したくて仕方ない!という思いが全身から溢れていて、もしかしてかなりストレスを溜め込んでいるのでは?と思ったことは内緒だ。
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