職を得る
べラルド卿に希望は伝えたものの、私の今後を握っているのが陛下というのはなかなかにインパクトが強かった。
聖女召喚は国を挙げて行っているのだろうからわからなくはないのだけど。
あとは卿の返答待ちの状態なので私にはどうすることもできない。
結局のところ、その後の私の毎日といえば同じことの繰り返しの日々となった。
朝起きて自室で朝食を済ませ、借りてきた本を読む。
自室にいるばかりでまったく動かないのも体に良くないだろうということで人気の少ない時間帯に王族専用の庭園を散策する。
そして昼食を取り、また本を読む。
時にはリリアに少し話し相手になってもらうものの、きっとそれはリリアにとっては仕事の邪魔だっただろう。
さらに夕食を済ませたら入浴して就寝。
まさに小学生以上に健康的な生活だ。
こんなにちゃんとした日々を過ごすのはいつぶりだろうか……。
そう思ってしまうくらいにはこちらの世界に来るまでの毎日は過酷だった。
しかも、私は今のところ立場的に他の人との接触は好ましくないからという理由で王宮庭園を散策する自由まで与えられている。
王宮庭園って、本来なら王族しか入れないのでは?
それとも私は違うけれど聖女ならいいのだろうか。
そんなことを思いながら過ごすこと一週間。
さすがにただ遊んで暮らすような生活に申し訳なさを感じ始め、さらには借りてきた本も読み切ってしまった私はどうしようか考えていた。
ちょうど本の貸し出し期限も一週間だし、できればまた図書館に行きたい。
というか、本音を言えば毎日でも行きたいのだが、その度に貸し切りにすると言われては他の人への影響を考えて自粛しなければならないと思ったのだった。
でも、貸し出し期限が来ているし、今日くらいは行ってもいいかな?
もちろん、リリアに頼めば本の返却はしてくれるだろう。
しかし新しい本を借りてきてもらうのは難しい。
何よりも私は実際に本を見て決めたい派なのだ。
さてどうしよう。
出かけるための用意はすでにできている。
朝食は済ませたし、今日の予定も当然ない。
悩んでいても仕方ないしまずは聞いてみようか。
そう思ってリリアに声をかけようとしたところで部屋の扉がノックされた。
私の部屋に訪ねてくる人は基本的にいない。
この一週間で会った人はリリアとべラルド卿、そしてグノシー伯だけなのだから。
改めて考えると引きこもりみたいよね……。
かくしてリリアに導かれて部屋に入ってきたのは、予想通りべラルド卿だった。
「突然訪ねて申し訳ない」
「いえ。問題ありません」
そうか、ここが日本でいうところの西洋系の世界なら、誰かの元を訪ねるには先触れのようなものが必要なのかも?
「先日ナツメ殿が希望された件、早くお知らせした方がいいかと思い突然だが寄らせてもらった」
おお!
それは突然だろうがもちろんウェルカムですとも!
「そう仰るということは、結論が出たということでしょうか?」
「ああ」
べラルド卿の返事に胸がドキドキしてくる。
卿の返答によってこれからの私の毎日が決まるからだ。
「陛下にも報告し関係各所とも協議した結果、ナツメ殿の希望通り図書館職員として勤務していただくことになった」
……うわーい!
やった!!
心の中で拍手喝采をしながらも、表面上は大人しく私は微笑んだ。
大人だから心で思ったこともちゃんと隠すことができるよ!
「それは大変嬉しいです。ご尽力いただきありがとうございました」
きちんとお礼を伝えて、さらに私は気になることを問う。
「では今日から図書館へ出勤しても良いでしょうか?」
「今日からですか?」
なぜかべラルド卿が驚きを顔に浮かべた。
「はい。返却しなければならない本もありますからちょうどいいかと」
「仕事が決まったと聞いてすぐに出勤したがる人は珍しいと思いますけどね」
え?
そう?
「普通はこれからの毎日が仕事に費やされると思うと少しでも長く休みを取りたがりますし、そうでなくてもいろいろと用意があるでしょう?」
そういうものだろうか。
私なんて仕事が決まったらすぐにでも出社しなければと焦ってしまうけど。
……というか、こういう思考こそが社畜なのでは?
自分で気づいた事実に若干ショックを受ける。
いやしかし、私は図書館に行きたいのだ。
だから。
「お気遣いありがとうございます。しかし私は少しでも早く仕事に慣れたいですし、グノシー伯へのご挨拶も必要だと思いますので今から向かってもよろしいでしょうか?」
私からの願いを結局のところべラルド卿は許可してくれた。
こうして、私は無事に職を得たのだった。
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