曖昧な立場
「まず、ナツメ殿をどこがお預かりするかがまだ決まっていません」
預かるというのは、どこが私に対して責任を持つかということだろうか。
「聖女召喚の際に他の者が一緒に召喚されることなど今までにない事例です。ですのでそのことに関しても調べなければならない」
ベラルド卿は丁寧に説明してくれる。
頭ごなしにダメだと言うばかりではないところに彼の誠実な性格が透けて見えた。
「さらには、ナツメ殿は黒髪黒眼です」
そりゃあ日本人だからね。
たいていの人は黒髪黒眼でしょうよ。
「聖女様が黒髪黒眼の少女であることは周知の事実」
うん、その話は聞いたよ。
「ですので、ナツメ殿を聖女様だと言う者が現れないとも限らない」
……ん?
いや、どこからどう見ても私は『少女』ではないから当てはまらなくない!?
十五が成人のこの世界の人にしてみれば『中年女性』でしょ?
……何だろう……自分で言っていてもやっぱり少しヘコむわ。
「つまり、あなたが危険に晒されるかもしれないということです」
……は!?
「え……? それはなぜでしょう?」
「国というのは必ずしも一枚岩ではない。何かしらの不満を持つ者があなたを利用して、自分たちの元にこそ聖女様がいると主張するかもしれません」
……なるほど。
あの女子高生こそが偽者で自分たちに真があると主張する人たちが出てくるかもしれないってことね。
「現状、聖女様が降臨されたことは発表しましたがあなたの存在はまだ伏せられています」
国内に混乱を招かないためかしら?
「実際は聖女様だけでなくお二人降臨したということもごく一部の者しか知りません。そして聖女様のお顔を知る者はさらに少ない」
やろうと思えば偽ることは簡単なのだろう。
「だからこそ、あなたをどこがお預かりするかは重要なことなのです。それはナツメ殿、あなたのためでもある」
「私のため、ですか?」
「あなたを私利私欲に利用しようとする者から狙われるかもしれませんからね」
「!?」
それは想定外!
平和ボケした日本人だからだろうか。
そんなことまったく考えていなかったよ。
ということは、私の今後ってかなり慎重にならないと危ないってことよね?
「生活の場が制限され、自由にできない状況を強いているのは申し訳ありませんが、もう少しの間我慢していただければと思います」
ベラルド卿はそう言って話を締めくくった。
……。
私は自分の今後の生活だけでなく、身の安全も考えなければいけないってことか……。
となると身を寄せられるところはかなり限られてくる。
以前ベラルド卿が言っていた神殿か王宮か……。
王宮か?
「ベラルド卿が私の安全も考慮してご提案くださっているのはわかりました。であれば尚のこと王宮図書館に勤めさせていただくのは双方にとって良いのではないかと思います」
「というと?」
「図書館は王宮内にあります。もし王宮のどこかに生活の場をいただければ、私の行動がすべて王宮内で完結するからです」
王宮には住み込みで働く使用人用の部屋があるはず。
私の存在を周知してもらう必要はあるかもしれないが、その部屋を借りて生活するのが一番安全な気がした。
「そうですね……」
ベラルド卿がつかの間思案する。
「王宮内が必ずしも安全とは言い難くはありますが、たしかにそれも一理ありますね」
必ずしも安全ではないって……王宮内で何かしらの陰謀が渦巻いているとでも言うのだろうか?
「一番安全なのは神殿だと思うのですが、あそこもまた何も問題がないわけでもないですし。ナツメ殿に希望があるということですから最大限考慮したいと思います」
ええ……。
その言い方だと神殿にもきな臭いものがあるってことになっちゃうよ……。
怖っ!
「いずれにせよナツメ殿のお気持ちは上にも伝えてなるべく早く結論を出します」
「上、ですか?」
「はい。ああ……陛下のことです」
……そうですか。
私の人事権を握っているのは陛下ですか。
……って、この国の最高権力者じゃないの!
数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になりましたら、ブックマーク登録、評価などしていただけるととても励みになります。
よろしくお願いします。




