交渉
「相談があると聞きましたが?」
そう言ってベラルド卿が現れたのはその日の夕方だった。
ちょうど私はお茶を飲みながら借りてきた本を読もうとしていたところで、リリアに頼んでベラルド卿にも同じ物を用意してもらう。
宰相というからには仕事が忙しい人だと思うのだけど。
それでもすぐに来てくれたということは、気にかけてくれているのかもしれない。
「今日図書館へ行ったのですが……」
私がそう切り出すとベラルド卿の視線が応接机の上に流れた。
「ああ。そちらの本を借りて来られたのですか?」
「そうです」
「気に入った本があったのであれば何よりです。それにしても、ナツメ殿はトルス国の言葉には不自由しないのですね」
少し不思議そうに言われて、聖女はどうなのだろうかと思った。
「幸いなことに問題ないようです。私が言葉を理解することが疑問ということは、聖女はどうなんですか?」
「聖女様は特別な能力と共に言語理解力も授けられると言われていますのでまったく問題ありません。しかしナツメ殿はイレギュラーですのでどうなのかと思いまして」
あー、はい。
そうですね。
私は予定外だからね。
「言語が理解できるのは異世界に誘拐されてしまった対価かなと思っています」
「誘拐……対価……」
ベラルド卿はいまだに『誘拐』の言葉が気になるらしい。
しかし私にとっては変わらぬ事実だから、主張はさせてもらいます。
「言い方を変えれば『ギフト』かもしれませんけどね」
「ではそこはぜひ『ギフト』でお願いします」
またもやどことなく疲れた雰囲気のベラルド卿がそう答えた。
「ああ、話がそれてしまいましたね。それで、相談というのは何でしょう?」
「えっと、仕事の話なのですが」
私の返答にベラルド卿の眉間に皺が寄る。
まぁ、待てと言われているにもかかわらず聞いているのだから当然の反応なのかもしれない。
「仕事に関しては他の者とも検討してからとお伝えしたと思うのですが……」
「ええ。ベラルド卿のおっしゃったことは十分理解しています。それでも、やりたい仕事が見つかりましたのでその仕事に就けないかご相談したくて……」
「やりたい仕事、ですか?」
ベラルド卿にしてみれば昨日の今日で急に何を言い出すのか、という気持ちなのだろう。
「はい。王宮図書館の職員になれないかと……」
「王宮図書館?」
「現在はグノシー伯お一人で図書館の仕事をこなしていらっしゃるので、人員は不足してますよね?」
「たしかに、図書館職員は二人辞めて以降増員はできていません」
え?
まさか王宮内の人事異動を全部把握してるとかじゃないよね!?
まさかね、と思いながらも否定できないのが怖い。
「グノシー伯もご高齢で大変そうですし、私自身トルス国の本には大変興味があります。それに、グノシー伯ともお話ししたのですが、図書館の運用に関して提案もありますのでぜひお願いできないかと」
「しかし……」
「何か問題が?」
何とも煮え切らない返答に問いかける。
ちゃんとした理由があるなら私だって無理を言うつもりはない。
でも働かなければならないのだから、できることなら興味のある仕事に就きたかった。
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