本好きの天国
「ナツメ様、そろそろお昼になりますので一旦お部屋にお戻りになるのはいかがでしょうか?」
図書館散策に夢中になっていた私の元にリリアが声をかけにくる。
え?
もうそんな時間?
そう思って時計を見るとたしかにもうすぐお昼だった。
ということは、私はここに二、三時間近くいたことになる。
時間を忘れるほど夢中になってしまった……。
少しのばつの悪さを感じながら私はリリアに促されるまま図書館入り口まで戻ってきた。
「おや、もういいのかな?」
「まだまだ見たいのですがもうお昼なので」
カウンターの中にいるグノシー伯に問いかけられて答える。
「なぁに。図書館は逃げやせん。また来ればいい」
そう言って彼はホッホッと笑った。
好々爺然としたグノシー伯は見た目の印象的にはいわゆるサンタさんだ。
年がどれくらいかはわからないが、白髪に白い髭を蓄えている。
「ぜひまた来たいです。でもその前にまずはこの本たちの貸し出しをお願いしたいのですが……」
「これはまた、たくさん選んだものだ」
カウンターに積まれた本を見てグノシー伯が驚きの表情を浮かべた。
「いえ、全然足りません!」
そう言って私はこの図書館がどれほど魅力的かを熱弁する。
「本好きには天国のようなところですよ」
「たしかにそうかもしれんなぁ。それにしても、皆がナツメ殿のように熱心だと助かるのだが……」
グノシー伯がふとこぼした言葉に私は引っかかった。
「何か気になることでも?」
「先ほども言ったように我が家は今までずっと図書館の管理を担当している家なんじゃが……残念ながら次の後継者がおらんでのぅ。一応親類に継いでもらうように頼んではいるんだが、本が好きじゃなければ辛い仕事になってしまうんでな」
たしかに。
本好きの私にしてみれば羨ましい職ではあるけれど、そうでない人にとっては地味で面白味の少ない仕事と思われてしまうのかもしれない。
しかも話を聞く限りこの国では家業とでもいうように家で仕事を継いでいくことが一般的のようだった。
「そうなんですね……私にしてみれば羨ましい仕事ですよ」
「そう言ってもらえるとは嬉しいものだ」
「この館内案内図もとてもよくできていますし、分類をもう少し細かくして著者名順で並べるとさらに使いやすい図書館になると思うんですけれど……」
私がつらつらと思ったことを続けて言うと、グノシー伯が目を見開いてこちらを見る。
「なんと?」
なんと? とは なんと?
思わず言葉遊びのように心の中で呟いてしまった。
「今の話をもう少し詳しく聞かせてくれないか?」
前のめるように問われて、気持ち腰が引ける。
「どの話ですか?」
「その分類とか並び順の話じゃよ」
ああ、そのことね。
「もちろんかまいませんよ」
そして私は説明した。
日本の図書館の基本的な運用方法を。
その説明を聞くグノシー伯の瞳がどんどんと輝いていく様を、私は驚きながら見ていた。
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