図書館
王宮図書館は私が与えられた客室の隣の棟にあった。
異世界から来た私を気遣ってくれたのか、それともあらかじめ何かしらの指示が出ていたのか、リリアはなるべく人目につかないルートで私を案内してくれた。
「こちらが王宮図書館になります」
図書館の入り口には緻密な彫刻が施された重厚な両開き扉があり、見上げた先、建物自体は三階建てに見えた。
リリアに聞いたところによると入館資格のある者であればいつでも利用できるらしい。
ただし、その入館資格を得るのが大変なんだとか。
どういう手続きをしたのかはわからないが、館内入り口で真鍮でできたアンティーク調の鍵を渡された。
「こちらの鍵があればいつでも図書館を利用することができます」
図書館職員なのだろうか。
入り口のカウンターに年嵩の男性が座っている。
「この方は館長のグノシー伯爵です」
リリアの紹介にグノシー伯爵と呼ばれた男性が立ちあがった。
「ああ。自己紹介をしていなくてすまない。伯爵と言っても領地があるわけでもない弱小伯爵家だよ。ずっと図書館の管理を担当している家でね。何かわからないことがあれば何でも聞いてくれればいい」
先に話が通されていたのかグノシー伯は私に関して何も聞いてこなかった。
それが思った以上に気楽で、そこで初めて私自身も自分の中途半端な立場にストレスを感じていたことがわかる。
「ナツメ・シンカイと申します。できれば『ナツメ』と呼んでいただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ」
グノシー伯には呼び方に関するこだわりはないらしい。
ああ、違うか。
べラルド卿はあの容姿にあの立場だから女性を警戒しているのね。
好々爺とでもいうようなグノシー伯はそういった心配がないからあっさりしているのだろう。
「館内の説明が必要であれば同行するが、自由に見たいというのであれば案内図を渡そう。どちらがいいかな?」
図書館の広さは広大で、見渡す限りどの本棚にも膨大な数の本が並べられている。
案内されなければ目的の本を見つけることすらとても難しそうだった。
しかし今のところ私には目的があるわけではない。
今日確認したいことは二つ。
一つは私にこの国の文章を読むことができるのかということ。
もう一つは、トルス国についての基本情報だ。
誰に何を相談するにしても、相手について知っているかどうかというのは重要なことだろうから。
「そうですね。特に目的はありませんので自分で見て回ろうかと思います」
「そうかい。ではゆっくりしていくといい。とりあえず午前中はナツメ殿の貸し切りにしておこう」
思わぬことを言われて驚きながらグノシー伯を見た。
「いえ。貸し切りにしてしまうと他に必要とされる方が利用できなくなってしまいますので」
「なぁに。少しくらいは構わんよ。ナツメ殿には落ち着ける時間が必要だろうし、誰かしらが出入りすると気になるだろう」
そう言ってフォッフォッと笑うとグノシー伯はカウンターへと戻っていく。
「貸し切りであれば危険がありませんので何よりです」
え?
その言い方だと貸し切りじゃないと何か危険でもあるというの?
リリアの言った言葉が若干気になったものの、下手に突ついて怖いことを言われたら……と思い、そこは黙っておいた。
「では私は中央の閲覧席でお待ちいたします」
図書館は入ってすぐ左手にカウンターがあるが、目の前には開けたホールがある。
そしてそのホールにはさまざまな向きにたくさんの種類のソファが置かれていた。
クッション性が良さそう。
ここのソファに座ってお気に入りの本を読むのは楽しそうだ。
もはや何を見てもワクワクしてきて、私はリリアをその場に残してさっそく館内探索に出かけたのだった。
数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。
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