宰相の戸惑い<三> Sideルシウス
結局のところ、ナツメにことの経緯をきちんと説明できたのはそれからだいぶ経ってからだった。
というのもハンカチを渡した後にもう一悶着あったからなのだが。
(いや、だからなぜナツメ殿の世界の服は……)
そう心の中で問いかけたのは何回目のことか。
とにかく、彼女の身につけている服は露出が高い上に体勢によってはかなり際どい感じになってしまう。
大概のことには驚かないルシウスでさえも目のやり場に困ったのだから、この状態の彼女を保護できたことは本当に良かったのだろう。
(そうでなければどうなっていたことか)
賢明にもあの場に留まっていてくれて助かったと胸を撫で下ろしたのは秘密だ。
そしてリリアに持って来させた膝掛けとルシウスのフロックコートを羽織ってもらうことで何とか話し合いのできる状態になった。
(これでやっと少し心を落ち着けてこれからのことを話すことができる)
そう思ったところで、やはり思考回路が斜め上のナツメがさらなる問題発言を繰り出してくるのだが。
「いわばあなたたちは誘拐をした訳ですよね」
『ゆうかい』
耳から入ってきたその音を認識はしたが、その言葉がどういう意味を持つかを頭が理解しない。
(ゆうかい? ……ああ……『誘拐』か。……!?)
驚きながらもナツメを見れば『何か違うのか』とばかりにこちらを見ている。
「いやまぁ、たしかにそうとも言えるかもしれませんが……」
混乱するばかりの頭を抱えて何とか答えたものの戸惑いは募る一方だ。
そうやってルシウスを混乱の渦に叩き込んだナツメは、しかしそのことに頓着せずにあっさりと話題を変えた。
ある意味、次の話題こそが彼女にとっては重要だったのだろう。
それは『これからの彼女の生活はどうなるのか』ということだ。
しかしそのことはルシウスの一存で決められるものではない。
『聖女』という国の最重要人物とともにこの国にやってきたからには、ナツメの処遇は国王陛下を含む貴族会と神殿との協議に委ねられる。
(今後のことが決まるまでここに滞在していただくとして、その間の生活の保障をどうするかを考えておかないといけないな)
そう頭の中で算段していたルシウスをナツメによるさらなる攻撃が襲った。
「仕事ですか!?」
なんと彼女は仕事を斡旋しろと言い出したのだ。
トルス国では貴婦人は表での仕事はしない。
その常識を丁寧に説明すればそれについては理解した様子だったが、今度はなぜか成人年齢や婚姻適齢期に微妙な反応を示す。
さらには平民の仕事でいいだの、肉体労働は避けたいだの、とにかく予想外の言葉がどんどんと溢れ出てくる。
「……あなたはびっくり箱のような人ですね」
そんな言葉も口からこぼれ落ちようものだ。
とにかく終始ルシウスを驚かせたナツメを何とか説得し、これからのことが決まるまでは客室を自由に使うように伝えたところで彼女とのティータイムは終わりを告げる。
たいていのことは難なくこなすルシウスではあるが、この時ばかりはいつになく大きな疲労を感じたのだった。
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