プロローグ
新海なつめ三十五歳。
子はまだない。
なんて、夏目漱石の某作品の冒頭部分を突然思い出してなぞらえてしまったくらいにはただ今衝撃を受けている。
子がまだいないのは当然だ。
なんせ未婚なのだから。
年も年だし、結婚しているならまだしも今から相手を見つけてさらには出産して……と考えるとなかなか無理ゲーと思ってしまうくらいには現実は見えていると思う。
さすがに一生独り身も寂しいし、子どもは持たなくても人生を共に生きるパートナーでも見つかったら嬉しいなと思って今さらながらに婚活をしようとしていた。
人生周回遅れなのは自覚済みだ。
それが、である。
えーっと……ここはどこ?
そう。
オタク気質で無類の本好きの私は気づいている。
いや、よく聞くよ?
本の中では本当によく聞く話。
ブラック企業の社畜だったOLがある日の夜中仕事でフラフラになりながら帰っていたら突然おびただしい光を浴びて――――――気づいたら異世界だった、とかね。
しかしそれはあくまで本の中の話。
いわゆるファンタジーである。
頭の中がいささか現実逃避をしているのは許して欲しい。
なんといっても、目の前でセーラー服の少女が豪奢な服を身にまとった美形に手を取られて頬を染めている、そんなテンプレな光景が繰り広げられているのを呆然と見ているのだから。