オープニング
フーッ!ガシャッ!カチッ!
やってはいけない理由も分かってはいるが、接触不良の時はついついやってしまう。
テーブルの缶ビールも汗をかきながら冷ややかな眼差しを向けているようである。
発売日は私の生まれる前だ、そもそもつくかどうかも怪しい。
フーーッ!ガシャッ!カチッ!
私『遊屋はじめ』は今日、新卒から短くない期間務めてきた会社を退職した。
配置転換後にうまくなじめず、無駄な正義感から上司に反発してしまったのがきっかけで、
だんだんと業務量が増え、職場内の風当たりも厳しくなっていった。
フーーーッ!ガシャッ!カチッ!
限界を感じ、震えながら提出した退職願もあっさり受理され、「こんなもんか」と思ったのもついこの間の話である。
気分転換に豪遊する気にもなれず、「もう来ることもないか」と帰路にある中古ゲームショップに寄ったのだが、
そこで偶然子供のころ遊んだ古いカセットを見つけ、思わず本体と一緒に衝動買いしてしまった。
フーーーーッ!ガシャッ!カチッ!
何度目かの挑戦の末、軽快な電子音が鳴り響く。
今ようやくテレビに「マジカル クエスト」のロゴが表示されたのだ。
「おめでとー!」
と、なぜだかそんな言葉が口からあふれてしまった。
同時に涙もあふれてきた。
久しぶりの達成感につられて、いろんな感情があふれてくる。
あぶない、と思いそれらをまとめてビールで喉に流し込む。
まだオープニングなのに泣いていてどうするというのだ。
大きく息を吐き、コントローラを握りしめ、私は [はじめから] を選択した。
***
昔の記憶のおかげか、難なく最初の洞窟をクリアする。
さすがに酔いも回ってきたのでこのあたりで切り上げる。
もう気にしなくてよいはずなのに、身体はしっかり「明日に備えろ」と訴えてくる。
布団に入り、ふとテレビの画面が目に入る。
ドットの立ち絵の女神様とテキストウィンドウ、そこには
[ かれを たすけて ]
と表示されていた。
テレビを消さなくてはという意思に反して瞼は下りていく。
また明日ね、と女神様に心の中で返事して眠りにつくことにし---
「お客さん起きてくださいな、そろそろ店じまいですよ」
突然ぶっきらぼうに呼びかけられる。
顔を上げて辺りを見渡すといかにも西部劇に出てきそうな酒場の風景が広がっている。
慌てて外へ出ると、剣と盾が書かれた看板の店や小さめの協会、少し先には大きな西洋風の城が建っている。
そしてこの配置、見覚えがある。
つい先ほど冒険を始めた最初の町そのものではないか。
あまりに青ざめた表情に店員らしき人も心配している。
ああ、夢なら覚めてくれ、とつねった頬はしっかりと痛かった。




