四話 無防備なユリウスとセシリアの戸惑い ②
最も奥へたどり着くと、大きなソファが用意されているのが見えて、そこで休憩しようと考えつつ近づくと、
「え…!? ユリウス殿下…!」
ソファに横になって仮眠しているユリウス皇太子がいた。傍には見慣れない文字で綴られた分厚い本が置き去りになっている。
私が近づいても起きる様子はない。そんなに忙しい日々を過ごしているんだと考えてみたけれど、どうしたらいいのか分からない。
分厚い本を拾い、傍のスツールに座って広げてみたけれど東洋の文字だということしか分からず、読むこともできない。すぐ退屈になってしまい、ただ茫然とユリウス殿下の寝顔を眺めていることしかできなくて。
「…どうして私があなたを狂わせるんですか? 私のなにがあなたをそうさせるの?」
そっと呟いてみるけれど、答えはない。当たり前だ。深く眠っているのだから。いくら相手は私を人質同然で婚約者にした皇太子といえど、寝込みを襲ってどうにかするほど私は落ちぶれていない。
そもそも大国の皇帝となられる人だ。こんな場所で深く眠るようなことはしないだろう。
女の身では簡単にねじ伏せられて終わってしまう。それではヴェスペル王国の民の立場も危うくなり……
そこまで考えて、バカバカしいと切り捨ててスツールから立ち上がる。古書を手近なテーブルに置いて、温室から出ていく。
温室の外ではアロイス様が政務官相手になにか難しいことを話していて、声を掛けられる雰囲気ではなかった。手近な騎士に宮殿の私室に戻ると伝えた。
長く戻らなかったせいだろう。女官達がそろって心配そうな顔で出迎えてくれて。
「セシリア様、あまりに長くお戻りにならないのでお探しするところでしたよ」
「温室でユリウス殿下とお会いしたわ。あの人も無防備なことね」
手近な女官にそう告げて、お茶の支度をするよう命令した。そして、置きっぱなしになっていたグランドハープの前に戻る。なんとなく思い浮かんだのは死んだ恋人へ捧げられた曲で…
爪弾きながら思い浮かんだのはユリウス殿下の安らいだ寝顔で。あんな顔をすることもあるんだと新鮮に感じていた。彼は勝利した大国の皇太子で、私は敗北した国の第一王女… 本来ならあり得ない再会、ありえない婚約で歪だ。
…まさか、私を手に入れるためだけに戦を起こしたのでは…?
そんなことありえないと打ち消す。たった一人の為に動乱を引き起こすなんて。そんな暴挙、許されるわけがない。それくらいの分別はユリウス殿下にもあるはずだ。
そう考えなおしてみても、他に答えが見つから自分に戸惑っていた。心からユリウス・ソーリス・オルトスという人のことが分からないと感じた。…知ってみなくてはならないとも考えて。
お待たせいたしました( ^^) _旦~~ もどかしいですね。
ユリウスの仮眠しているシーンはもっと短かったのですが(-ω-;) まあ、いいかな。のんびりまったり参りましょう。最後までお付き合いくだされば幸いです。