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四話 無防備なユリウスとセシリアの戸惑い ①

人質として連れていかれた首都での暮らしは、予想外に穏やかなものだった。ヴェスペル王国では次の女王として、女王の補佐役を相手に政務を手伝っていたけれど、ここでは何もしなくていい。


「セシリア様、お茶の時間になさいましょう」


手慰みにグランドハープを弾いていた私に、まだ名前も覚えきれていない女官が歩み寄って告げる。私はもうそんな時間になったのかと退屈さを感じつつ、女官に促されるまま立ち上がり、お茶の席へ向かう。


「ユリウス殿下はどうなさっていますか?」


「長くはなくても国を空けてしまわれたので、政務に大忙しですわ。皇帝陛下は病に臥せっておられますので」


お茶の席で些細な会話のつもりで問いかけてみるけれど、帰ってくるのは私でも想像つくようなことしかなくて。


「そう… ありがとう」


注がれたお茶を啜ってみる。用意された茶菓子はスコーンと白桃ジャムで、ヴェスペル王国ではめったに口にできない高級な果物だった。


「セシリア様はクロテッドクリームを好まれないとのことでしたので… ご入用でしたら用意させることもできますが、いかがなされますか?」


「いいえ、いらないわ。お茶を頂いたら散策をしてもいい?」


「どうぞご自由に。ここはユリウス殿下のプライベートな領域ですので、ご安心を」


幾らかそっけない様子で言うと、女官は部屋の隅へ下がっていく。婚約者の生活というのを想像したこともなかった私がいて、改めて驚いてしまう。あまたの貴族の令嬢たちは毎日をどのように過ごしているんだろう。


政務に係わるでもなく、女王教育を受けるでもなく……


王位継承権第一位を有する王女に生まれたのが宿命だからと、私は立ち向かっているつもりだった。求められるまま努力もしてきたし、次代の女王として安心だと貴族達からも信頼されていた。



自由って何だろう?



不自由と思ったことはないけれど、私は本当に王女に生まれて幸せだと感じていたんだろうか? ユリウス殿下のように明るく笑って……?


そんな自分が想像できなくて。お茶だけを啜った後、庭へ散策に出ることにした。スコーンが美味しいのはここにきてすぐに知っているから、女官に持ち帰っていいと命令して。



宮殿の庭をぼんやりと歩く。蔓バラの生垣が色とりどりに花を咲かせているけれど、ほとんど目に入らない。


豪華な庭だと思いはしても、それだけだ。ヴェスペル王国でもここまで広大ではなくても豪華な庭をステータスとして作らせていた。こうして散策することはなかったけれど。


「ユリウス殿下のことばかりね。少しおかしくなったのかしら」


そっと呟く。紫のバラが美しく咲き誇っていた。ユリウス殿下の目と同じ紫のバラ… 紫の目が珍しかったわけじゃない。けれど、あの切なく笑った様子が頭から離れない。


「私が狂わせるって… どういうことなの…?」


考えてみるけれど意味が分からない。散策を再開する。けれど、なにも目に入らない。


着ているドレスもなにもかも私が宮殿に到着した時にはすでに用意されていた。…ユリウス殿下の執着心を表しているようで、ひどく戸惑ったのを覚えている。恐怖に似た何かを覚えて…


「あなたは… セシリア様ではありませんか。このような場所までどうして」


足の向くままに庭を散策しているだけだったのに、ユリウス殿下の傍に仕えている青年貴族と鉢合わせし、驚いて言葉を失う。物の数にも入れていなかったけれど、護衛騎士が増えていることにようやく気付く。


いつの間にか宮殿の奥深くへ来てしまっていたらしい。そんなことにも気づかないなんて、どれだけユリウス殿下に心奪われてしまったのだろう。


「アロイス様… 大した目的などありません。何もしないと言うのも退屈で…」


「左様でしたか。では、こちらへどうぞ。ここは宮殿の中でも特別な温室です。先代の皇帝陛下のご趣味で世界各国の花を集められました」


温室のドアを開けて中へ入るよう促しながら説明してくれる。草花に興味はなかったけれど、断るのも不自然な気がしたので遠慮なく踏み込んでいく。当然、アロイス様も中へついてくるものと思ったけれど、静かに温室の戸が閉じられてしまう。


不思議に思ったけれど、深くは考えず中を呆然と眺めながら歩いていく。


バラの花はステータスに選ばれるので見慣れていたけれど、ここではヴェスペル王国でも見たことのない珍しい花が咲き乱れていた。


「先代様もいいご趣味をお持ちだったのね」


そんなことを呟きながら珍しいオレンジ色の百合を眺める。

お待たせいたしました( ^^) _旦~~

ようやく二人の関係を進展させてあげられそうです。ちょっともどかしいけれど…

最後までお付き合いくだされば幸いです。

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