四話
川に着いたはいいが着いて早々に問題が起きた。川の水を煮沸する手段がないのだ。異世界に転移する主人公は何故か都合よく火を簡単に起こせるが、実際にやるととても難しい。
俺が知っている火の付け方はよくサバイバル番組なんかで観る乾燥した木と木を擦り合わせ火種を作りそれを枯れ草につけるという物だ。これをやろうと思えば乾燥した木と枯れ草なんかが必要なんだが、この森にはそういった物が一つも落ちていないのだ。
普通の森なら季節の移り変わりなんかで枯れ草なんかが沢山落ちているがこの森には全く落ちていないのだ、それどころか枯れた木や落ちた果実なんかも見つからない。まるで人工的に管理された作られた自然の様だ。
ここまで来るとここが一体何なんなのか余計にわからなくなってくるが、そんなのことは気にしていられない。動物の気配もないこの森では野生動物に襲われる危険は無さそうだが、逆に言えばタンパク質を取れないということだ。
火を起こすことも出来ない現状では早急に町を探さないといけない。夜がどれだけ冷え込むかもわからない。川を下って町を見つけら無ければ三日ほどで死んでしまうだろう。
ここまで来るのに五時間ほどかかっているから出発したのがお昼だとすればそろそろ日が暮れてくる頃筈だが、日が暮れる様子は全くなく太陽はずっと真上にある様な気がする。
動物の気配もなく太陽の位置も変わらない不気味な空間だ。今思えば最初に果物を食べてからしばらく空腹を感じていない。焦って生き残る事ばかり考えてあまり気にしない様にしていたのもあるが、俺はそこまで燃費がいいわけでもないそれに、誰だって五時間も慣れない土地それも森の中で動き続ければお腹は空くだろう。
もしかすると今いるこの森は自分の空想で本当は今も教室で寝ているのかもしれない。クラスが突然燃えたのも嘘で本当はただの夢かもしれない。
でもそれは難しい望みだろう。俺は確かに炎で体を焼かれ全身を引き裂かれる様な痛みに苦しみながら死んだ。
今も痛みは覚えている。ならば此処は一体何なのか俺の燃えた体は一体どうなったのか、どうしてこの体は無事なのか、何故こんなところにいるのか全く以って全てに説明がつかないのだ。
唯一救いと言えるのは死ぬ危険性がまだないという事だけだ。
(こんなこと考えても仕方がない。とにかく川をくだろう。)
考えてわからない事は一旦忘れて町を探して川を下るのだった。