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ep008

これは、シェアハウスでの共同生活から

4年前のとある夜。


ダークハンター影山狩宇の過去の物語(1/4)

「いったぞ!気をつけろ!」


影山狩宇(しゅう)の怒号が森の中に響く。


「ぐぉぉぉぉお!」

と地響きのような唸り声が木々を揺らす。


憤怒に燃える顔の中心に大きく開く単眼。

伝説のモンスター、サイクロプスである。


身の丈4mはあろうかという巨人が

筋骨隆々な右腕を振り下ろす。

影山の視線の先にいる、ひとりの

小柄な男を叩き潰そうとしていた。



だがその男は巧みにステップを踏み

巨木のような剛腕をかわす。


ドォーン!と地面を叩きつけた右拳が

巻き起こる土煙と朽ちた枝葉で見えなくなる。


もし食らっていたらひとたまりもない。



影山が小柄な男を援護しようと

仕事道具の入った鞄に手を伸ばしたその時。


小柄な男はぐっと身をかがめて飛び上がった。


文字通り、飛び上がった。

その高さ3m…いや5m。


もちろん、

身体能力だけで飛び上がったわけではない。

小柄な男の足元から

噴射する炎のようなものが見える。


それはダークハンターツールスと呼ばれる、

狩人のための秘密道具のようなものだ。


改造されたその特殊な靴が

ジェットパックのような役割を果たし

飛べないはずの人間に空を舞う自由を与えていた。



跳躍なのか飛翔なのか、

とにかく飛び上がった男の姿を

影山が目で追う。


森の木々の間から夜空に輝く満月。

金色の円を背にした小柄な男が

禍々しい形状をした剣を振りかざし

まるで鬼神のようなシルエットになる。


少なくとも影山にはそう見えた。

そしておそらくサイクロプスにも。


「ぐぉぉぉぉん!」


再び発せられた雄たけびは

相手を威嚇するものではなく

明らかに恐怖を感じたものになっていた。


そして次の瞬間。


足元からのジェット噴射と共に

小柄な男が急降下。


同時に禍々しい剣を

サイクロプスめがけて振り下ろす。


「がっ…!」


断末魔の叫びを上げる間もなく

単眼の巨人は肩口から胴にかけて

袈裟斬られ、ズルリと肉体が崩れ落ちる。


すでに着地していた小柄な男は

巨大な肉塊と化したモンスターを

一瞥し、剣を収めた。



「圧巻だな」


肩をすくめて声をかける影山。


「確かに。こんな大きい奴がいたなんて」


小柄な男が同調すると影山は首を振って

わずかに笑う。


「こいつのことじゃあない。

 お前の動きに対してだよ」


褒められたことに気づいた小柄な男は

それまでの精悍な顔つきから一転し

糸目になってはにかんだ。


「ほんと?ありがとう、兄さん」



ダークハンター影山燈雨(とう)


影山狩宇の弟にして

ダークハンター史上、最強と称された男である。




*  *  *




存在してはいけない存在。

それがハントすべき対象である。


生きとし生ける者すべてに

存在理由はあるものだが

表世界に紛れ込んだモンスターは別である。


それらは例外なく()()()()()いるからだ。


つまり明確な意志をもって表世界に来ている。

あるいは何者かに操られて表世界に来ている。


どちらにせよ、自然発生的に

表世界に来ることはできないのだ。


ふたつの世界を行き来するには

『ステイション』を経由する必要がある。


それは文字通り駅のようなものであり

ゲート、関所、転移ポイント…

様々な解釈が可能な場所である。



表世界の人間は(ごく少数を除いて)

ステイションを認識していない。

どこにあるのか、どんな形なのか

そもそも存在自体を知らないでいる。


そのため、基本的には裏世界の者のみが

ステイションを経由して表世界にやって来る。

あるいは裏世界に還っていく。


裏世界にも秩序や社会、国家があるので

ステイションの利用には正式な手続きが必要だ。


知能のあるモンスターが手続きを踏んで

表世界にやってくるか、

知能のあるモンスターが何らかの目的のため

知能の低いモンスターを表世界に

送り込むか。


大別するとこの2種類である。


人間の血を欲する種族、

人間の肉体を欲する種族、

人間の恐怖を必要とする種族、

人間そのものの支配を求める種族…。


様々な裏世界の住人が

世界の各所に散らばるステイションを利用する。


目的はどうあれ表世界の人間にとっては

害悪なのである。



だからこそダークハンターは生まれた。


裏世界の住人を狩り

表世界の平穏を守る。


その発祥は歴史に刻まれておらず

古代人の時代から存在していたとも

大航海時代に生まれたとも言われている。


いつしか世界中にギルドが点在し

秘匿されたネットワークによって

世界の平穏を守る組織が形成されていった。


実は同じような組織は他にも存在する。

主に国家や政府の懐刀として機能しているが

ダークハンターはそれらとは一線を画す。


どこにも属さず

完全に独立した集団なのだ。


所属する方法はスカウトのみ。

スカウトされ特別な訓練を積んだ者のみが

ダークハンターとなる。


大抵は兄弟姉妹、親子に至るまで

ダークハンターになったからには

一切関りを捨てなければならないのだが

影山兄弟だけは例外だった。


正確に言えば、影山燈雨だけが例外だった。



それほどに彼の才能はズバ抜けていた。


ダークハンターにも得意不得意があり

討伐に特化した者、諜報に特化した者、

戦術に特化した者、隠密に特化した者…。


と、様々な種類があるが

燈雨は討伐スキルに関して圧倒的で

各時代を代表するダークハンターに

名を連ねる存在と目されていた。


元々スカウトをされたのは兄の狩宇だった。

だが弟の才覚を組織にプレゼンしたところ

燈雨が本物だったため兄弟で組織入り。


燈雨が兄を強く慕っていたことから

特別に兄弟でのバディとして

仕事を任されるようになったのだ。



*  *  *



「兄さん、また仕事だよ」


サイクロプスを討伐してから数日後。

湖が美しい避暑地のコテージで英気を養っていた

影山兄弟に新たな仕事の依頼が来ていた。


「まったく、最近は裏世界が騒がしいな」


兄の狩宇はため息交じりにハンモックから

上体を起こす。


「つっ…」

「大丈夫?」


サイクロプスとの戦いで左腕をケガしていた狩宇。

ダークハンターである以上、

こんなことは日常茶飯事ではあるのだが。


「なぁに、問題ない。じきに治る」

「…ごめんね、僕のカバーが遅れたせいだ」

「はっはっは!お前の立ち回りは完璧だった。

 私の反応が悪かっただけだよ」


右腕でポンと弟の頭を撫でる狩宇。

燈雨は落ち込んだ表情のまま笑みを見せる。


「でも兄さん、最近ケガ多いし…」

「お前は私以外を知らんからなぁ。

 他のダークハンターに比べれば少ない方なんだぞ?」


狩宇の言葉は真実である。

ダークハンターにとってモンスターの討伐に

無傷であることの方が稀なのだ。


むしろ狩宇は攻防のバランスが良く

そのタフネスぶりを評価されていた。


つまり、傷を負うこともケガすることもほぼ無い

燈雨が異常すぎるのだ。


それでも彼は兄が心配だった。



「で?次の仕事はなんだ?」

「……」


狩宇の質問には答えず立ち上がる燈雨。

いつでも動けるようにまとめてある荷物を

肩にかける。


「おい、燈雨?」

「兄さんは休んでて。今回は僕だけで行ってくる」

「なに?」


布でぐるぐる巻きにしていた剣を

背中に装着し、ぐっと力こぶを見せる燈雨。


「名付きのモンスターだけど、大丈夫。

 僕の方が強いから」


僕の方が強い。

その言葉に誰も異論は挟めない。

それほど燈雨の実力は本物だ。

だが…


「名付きのモンスターだと?じゃあ

 余計に単独行動は避けるべきだ」


名付きのモンスターとは、文字通り

名前が知れ渡っている上級種族のことだ。


裏世界において影響力も実力もあることから

表世界にまで名が伝わって来る者のこと。


並みのダークハンターでは手に余る存在なので

可能な限り複数人で対処するよう

組織からお達しが出ている。


もちろん燈雨の実力であれば単独討伐も可能。

事実、これまでも名付きをたったひとりで

何度も討伐してきていた。


「ケガしてる兄さんがいたら

 逆にカバーが大変だもん。

 僕ひとりでいいって」

「それは…」


恥ずかしながら、その通りだ。


ハッキリ言って燈雨単騎の方が

自由に戦うことができる分

討伐精度も上がるだろう。


自分の不甲斐なさを恨みながら

せめて情報だけでも知っておきたいと

狩宇は弟の背中に声をかける。


「今回の討伐対象は何者だ。

 それだけは聞いておく」


美しい湖畔の反射光に照らされた燈雨が

組織からの伝書を開き、読み上げる。



「ヴァンパイアだよ。

 悪名高いヘイザー家の女だ」




読んで頂き、ありがとうございます!

ダークハンター影山の過去が描かれています。

彼の人生が明らかになっていく…!

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[良い点] 8話から、ショートアニメにはないStoryと新キャラクターの登場。 [気になる点] 影山Brothersの関係とヘイザー家とのバトル&結果がどうなるかが気になりますね。 [一言] 一言じゃ…
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