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ep003

超高層ビルの屋上にあるシェアハウスは

まるでアメリカの田舎にある別荘のように広い。


カウンターのあるダイニングキッチンやリビングは

大人が15人ほど集まっても問題のない広さで

バルコニー側は一面全てが窓ガラスのため解放感もある。


その広さは、BBQでも楽しめるほど。



少し探索してくる、と言ってリビングを出ていった霧矢。

魔理と瑠衣はソファに座り、女子同士のトークに花を咲かせていた。


「そっかぁ、魔理モは牛丼屋でバイトしてるんだぁ」

「はい。…魔理モ?」

「超大変そうだね、牛丼屋」

「え、あぁ、そんなでもないですよ。暇な時間も多いし。

 瑠衣さん、食べに来ます?」

「行きたいけど、あたし最近、炭水化物抜いてるからなぁ」


読者モデルの瑠衣は体型維持に気を使っていた。

もともと美味しいものに目がない彼女は

身体に肉がつきやすい体質なのだ。


「え、瑠衣さんって読者モデルなんですか?」

「そだよ。『eggかけライス』っていう

 ギャル向けのファッション雑誌」

「めっちゃ炭水化物チックな雑誌ですね」


一時代を築いた伝説のギャル雑誌を超えようと

オマージュにオマージュを重ねてむしろ全く別モノになって

創刊されたのが『eggかけライス』である。


最初は興味本位で参加した瑠衣だったが

のちに人気コーナーとなる『キレたら怖いのどっち?』シリーズで

徐々に頭角を現していくことになる。


ギャルとおじさん、キレたら怖いのどっち?

空手家と活動家、キレたら怖いのどっち?

…など、様々な人種をキレさせてどちらが怖いかを検証する企画。


その検証を担当していたのが瑠衣である。


段々企画はエスカレートしていき、

検証対象が人間だけでなくなったところで人気に火が点いた。


特に『犬と猫、キレたら怖いのどっち?』の回では

双方から吠えられ引っ掻かれ、そのガチっぷりに

ギャルの間で話題沸騰。


動物は瑠衣の正体が狼女であることを敏感に察知していたのかもしれない…

そんなことを考えながらも彼女は全力で誌面企画に挑み、

今や表紙を飾るほどに成長したのだ。



「てか魔理モはご飯食べるの好き?」

「あの、その前にその…魔理モ?って何ですか?

 読モみたいなノリで言われてますけど」

「あだ名でしょ、普通に」


ギャルはすぐにあだ名をつけたがる人種なのだ。


「あだ名かぁ。マリモって湖にいる藻の塊ですよね?」

「そだよ。コロンとして可愛いじゃん」

「そう言われれば確かに、マルって感じで可愛いかも!

 こんな感じで!」


と言って手で丸を作る魔理おなじみのポーズ。

咄嗟に瑠衣は顔を背けた。


「ひゅっ…」

「ん?」


瑠衣のコンプレックスは狼に変身した時の毛むくじゃらな自分。

丸いものは絶対に見たくないのだ。


「くっ…あだ名のチョイス失敗したわ…」

「ちなみに」


突然ソファの後ろから声をかける霧矢。

音もなく現れるのはヴァンパイアであるがゆえの習性だが

実際にされたらたまったものではない。


「丸い塊がマリモなんじゃなくて、あれはあくまでも

 糸状の繊維が球状に集合した姿なだけ。

 つまり細い一本一本をマリモと呼んでも問題はないんだよ」

「どしたの急に」

「割と長文でどうしたんですか」


冷静に素早いツッコミを入れる瑠衣と魔理。

かつてないほどの無表情だ。


「え…いや、ちょっと話が聞こえたから…つい」


300年も生きている伝説の吸血鬼である霧矢は

あらゆる知識を無駄に披露してしまうところがある。


だが長文になりがちなので、最後まで聞いてくれる人は少ない。


微妙な空気になったところで、救いの手のような音がリビングに響き渡る。

ドアチャイムの音だ。


「わ、次の住人?」

「かも!男子かなぁ、男子かなぁ?」


盛り上がる女性陣。

その横で霧矢もついほくそえんでしまう。


「あぁ男子さ。きっと男子に違いない。

 男子であるべきなんだ」


ぶつぶつと霧矢がお経のように唱えていると

勢いよくドアが開いて男子が入って来る。


「お邪魔しまーっす!」


緑のツンツンヘアーに太めの眉毛。

少年のように無邪気な笑顔が眩しい。


彼の名は桜来清おうらいきよし、21歳。

まさにカワイイ系男子といった風貌である。


そんな彼が元気いっぱいにジャンプしながら入ってきたことに

驚き見上げる魔理と瑠衣だったが、


「ん男子(だーんし)っ!!」


と、さらに清よりも高い跳躍で飛び掛かる霧矢。

先ほどまでの血が足りていない病弱そうな姿からは

まるで想像もできない運動能力だ。


「うわぁっ!?」


初手ジャンピング登場をさらに上回るジャンピングに

気圧されてしまう清。

思わず両手でガシッと肩を抱き、

さらに優しい手つきで顔を撫でてしまう霧矢の瞳は輝いていた。


「ありがとう!」


男子の住人が来てくれたことに

自然と感謝の言葉がこぼれ出た。


しかし次の瞬間、驚くべき事態が巻き起こる。


「ぐぅ…」


なんと清が立ったまま一瞬で寝てしまったのだ。

「え…?」


動揺してしまう霧矢。

無理もない。


実はこの桜来清、正体はキョンシーなのである。


実際のキョンシーは動く死体とも言われる妖怪だ。

青白い顔色で両手を前に突き出し、ピョンピョンと跳ねるあのモンスター。

いわば東洋のゾンビとも言われる存在だが

清は特殊な呪法によってキョンシーになっているため血色はいい。


そして一瞬で寝落ちした件については…

顔の左側、こめかみ辺りに赤いほくろのような印が2つあり

霧矢が先ほどそれに触れてしまったからなのだ。


その印は以前、霊幻道士につけられた血の刻印。

キョンシーの行動は呪術によるお札か血の刻印によって制御されてしまう。


偶然にも霧矢が触れたことで刻印が作動してしまったのだが

道士がいない今、ただ動けなくなっているのが実情なのだ。



「えっと…あれ?」

「ちょっと霧矢くん、何してるの…って

 寝てる?」


先ほどの大ジャンプを追求したい瑠衣だったが

それよりも清の異変に気付いてしまう。

ひょこっと顔を出し、魔理も後ろから様子を伺う。


「…寝てますね、この人」

「あぁ、熟睡だ。…それに、肌も綺麗だ…」

「肌関係なくね?」


瑠衣のツッコミも聞こえていない。

霧矢はツルッとした清の肌に魅せられていた。

間近で見る男子の寝顔にうっとりしていると…


「どゆこと?なんかしたの?」


瑠衣が訝しげに問い詰める。

ハッとして正気を取り戻した霧矢は

慌てて説明を始めた。


「いや、僕はただ、男子のルームメイトが増えるのは

 嬉しいな、非常に嬉しいなって…その、ちょっとした

 スキンシップをしただけなんだよ。こうやって…」


再現するように清の顔に触れる霧矢。

こめかみにある血の刻印に指が当たると、


「はっ!」


清はパチッと目を覚ました。


「うわっ」

「あ、どうも!お邪魔しまっす!」


そして何事もなかったかのように笑顔で挨拶をする。

その様子に目を丸くする魔理と瑠衣。


「起きた」

「いやいやいや、意味分かんないんだけど」


スキップするようにリビングを抜け、

夜景が一望できる窓へ向かう清。

その行動はフリーダムだ。


「あのー、いま寝てましたよね?」

「やだなぁ、寝てるわけないじゃん!

 ただの仮死状態だよっ」

「いやむしろ怖いわ」


本当に仮死状態だったのだが、

自分がキョンシーであることなど分かるはずがないと踏んで

あっけらかんと話す清。


とにかく元気な彼は、場の空気を明るくする才能があった。

小柄な少年という見た目もあいまって

なんとも人懐っこさを感じさせる。

それでいてどうやら恋愛にも どストレートだった。


「ま、とりあえず結果オーライってことでさ!

 これからバンバン恋愛しようよ!」

「は、はぁ…」

「底抜けに明るい子来たね」


太陽のような笑顔と強めのセリフ。

魔理と瑠衣は彼のキャラクターに苦笑いを浮かべる。

その横で清をチラ見している霧矢がいた。


「恋愛か…たまらないな」


胸のドキドキを抑えられない様子で

これからのシェアハウスでの生活を夢想してしまう。


だが清のひとことで急展開。


「てかさぁ、男子が2人に対して女子が3人もいるなんて

 最高じゃん!」


男子が2人に女子が3人?

数字が合わない。

一体何を言っているのかと魔理がキョトンとする。


「えっと…女子も2人しかいませんけど…」


すると清は底抜けに明るい笑顔で言い放つ。


「またまたぁ。じゃあそこにいるセクシーお姉さんは誰?」


「!?」




読んで頂き、ありがとうございます!

サキュバス、ヴァンパイア、狼女、キョンシーが揃ってきました。

次のキャラクターは一体…?

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