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22/22

ep022

通常、人はドアを開けて部屋に入ってくる時は

ドアノブを回し、歩いて入ってくるものだ。


もちろん急いでいたならば

走り込んでくることもあるだろう。


だがこの桜来清という男は。

およそ人体の限界までエビ反りをして

大ジャンプしながらの登場だ。


「すごーい」という感想(魔理、霧矢、たま子)と

「いやなんで?」という感想(瑠衣)を一身に浴び

見事に着地をしてみせた。



「ちょっと…いきなりどうしたん?」

「はぁはぁ…見つけちゃったんだよ…

 すっごいものを…!」


息を切らせる清を優しく介抱するかのように

霧矢はすっと近づいた。


「ちょっとほら落ち着いて。

 そんなはぁはぁしちゃって…内容が入ってこないよ」


そう言う霧矢こそが若干はぁはぁしてしまっている。


男子の息切れは彼にとってのスイーツだ。


「いやぁゴメンゴメン。

 ふぅ、汗かいたぁ」


そう言ってうなだれながら額の汗を拭う清だが

一瞬こめかみ辺りが発光したことに

誰も気づいてはいないようだった。


それよりもはやる気持ちを抑えられない魔理は

トタトタと足踏みしながら清に詰め寄る。


「ねぇ早くすごいの見たいです」

「そうね」


たま子が魔理の肩に手を置いて同調する。


「確かに溺死体は急いで処理してあげないと

 可哀想だから…」

「いや怖いわ!なんで死体前提で話が

 進んでるわけ!?」

「すみません…あるあるだなって思って」

「ないないだわ!」


美しい表情を崩さず恐ろしいことを言うたま子に

瑠衣も若干慣れ始めていた。



「ったく、ねぇ清くん、早くそのすごいところに

 連れてってよ…って寝てるゥーッ!?」


うなだれて汗を拭いていると思われていた清を

よく見ると、完全に寝ていた。


先ほどの発光現象、それは汗を拭った時

血の刻印に触れてしまったがゆえの出来事。

つまりキョンシーである清は今、仮死状態なのだ。


そうとは知らずただ寝てしまったと思っている霧矢は

再び清に触れるチャンスとばかりに前に出た。


「もう清くん。こんな汗かいたまま寝たら

 風邪引いちゃうゾ?」


昔のゴシップ雑誌のような物言いで

清の汗を拭おうとする霧矢だが

指が滑って血の刻印に触れてしまう。


するとパチッと目を開ける清。


「うおっとぉ!」

「起きた」

「このくだり前もあったし」


清の奇怪な行動も冷静に対処してしまう住人たち。

すでに彼らの感覚は麻痺していた。


だが霧矢だけは純粋に清の体調が

気になってしまう。


「寝顔サービスは非常にありがたいところだけど

 その体質、大丈夫なのかな…」

「ま、仮死状態になってもこうやって

 戻ってこれるなら結果オーライでしょ!」


すこぶる前向き元気少年の清に

霧矢は優しく微笑んでしまう。


そしてこう思っていた。


たまらないな、と。



「きっと寝不足なんですよぉ。睡眠は大事ですよ?

 ちゃんと夜はぐっすり眠って深ぁ〜い夢の中に

 落ちた方がいいですよ…?」


ニヤリとしてサキュバス的に有利な状況を

作り出そうとする魔理。

あと一歩でよだれが垂れそうなほどの笑みだ。


そこに被せてくる幽霊女子、たま子。


「そしてそのまま永遠の眠りにつく…

 あるある」

「ないないだわ」


息を吐くようにツッコミを入れる瑠衣だが

すでにイライラしていた。

そしてそれを助長するのが他でもない、清だ。


「やだなぁみんな!そんなに俺のことが

 気になってるんだね!よし、ローテーションで

 付き合おうよ!」


満面の笑みで万歳をする天真爛漫男子。

しかし息を大きく吸い込んで瑠衣がストップをかける。


「ねぇぇぇぇぇぇぇ」


呆れ果てた瑠衣に住人全員が注目する。


「一生続く?このくだり。早く行こうよもう」



ごもっともである。



*   *   *



シェアハウスは高層ビルの屋上に置かれた一軒家。

その構造もシルエットも異様なのだが

なぜか注目されることも騒がれることもない。


SNSですぐにでも「ポツンと変な家」などと

拡散されてもおかしくはないのだが

どこにも情報は出ていない。


その理由は、シェアハウスを運営する組織が

裏で情報操作をしているから。


そのため住人たちは安心安全な生活が約束されているのだ。



「まだ慣れないなぁ。家のドア開けたら

 ビルの屋上って環境」

「確かに不思議だよね。しかも安全柵とかもないし。

 落っこちたら大変だよ…」


魔理と霧矢が会話しながら玄関から出てくる。

闇の住人である彼らは、たとえ落っこちても無傷、

あるいは何らかの手段で着地することは造作もない。


怖がるフリをしながら超高層ビルの屋上を歩いていた。



清を先頭にビルの屋上部分から

階下へとつながる非常階段へと向かう。


「こっち側からも下に行けたんだ」

「ね、知らなかった」

「あら…?」


たま子が非常階段を降り切ったところにある

いくつもの木片を発見する。


誰かが落とした拷問器具の端くれかな?と

怖い連想をしながら木片に近づくと

途端にその木片が持つ術力に気づいた。


「っ!」


思わず後ずさりするたま子に

清が気づいて近づいてくる。


「あ、これね。なんか俺が来た時から

 こうなってて。なんだろね?ゴミかなぁ?」

「…さぁ?なんでしょう…」

「ま、管理人さんが清掃してくれるだろうし

 触らないでおこうよ」

「えぇ…そうですね」



触るなんてもってのほかだ!

そうたま子は密かに戦慄していた。


この木片は超強力な結界を張り巡らせるための術具。

裏世界においても上級モンスターを封印する場合にしか

お目にかかれない代物だ。


それがなぜこんなところに?

そして明らかに()()()()後が見てとれる。



何が封印されていた?

そして誰がこの結界を破った?


清が来た時にすでにこうなっていたということは

この住人たちの中に犯人はいないことになる。


そもそも全員がこの場所を認識していなかった。

清に関しても、普通の人間に結界を破る必要がない以上

彼もシロだろう。



となると…


影山狩宇。

ダークハンターの男。



いやしかし、何かを封印していたのなら

彼こそ最もこの結界を守りたかったはずだ。



どうにも見えない事件だ。

食えない展開だ。


たま子は木片のことなど気にも留めていない

魔理、霧矢、瑠衣の3人を見て

この平穏な共同生活を崩さないように

心を静めた。


そうだ。

ここにいるのは普通の人間の男女。


この木片のことは改めて後日

自分なりに精査しよう。


そう思い、魔理たちと一緒に非常階段の奥にある

見慣れないドアへと向かった。



「このドア入ったら長い廊下があるんだけどさ、

 右奥にすごいところがあるから、行ってみよ?」


清が自分以外の住人を先に促す。


そして非常階段脇にある木片を見やり

少し表情を曇らせる。



「師匠…まさか、あんたの結界術なのか…?」



見慣れない場所で遭遇した、

見慣れた術。


なぜここで…

なぜあの人の術が…


清の脳内が疑念で満たされる。



ぐっと拳に力を込めて、他の住人たちが

すでに向かっている異質空間へと歩を進めた。





読んで頂き、ありがとうございます!

常に闇の住人である本来の日々が

隣り合わせの日常です!


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