表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/22

ep019

「合コンでは壁際の席に座ると

 男子と2ショットになりやすいので

 おすすめ…ほほう」


リビング中央。

存在感抜群に置かれたソファで

寝転がりながら声を出しているのは

ポンコツサキュバスこと夢仲魔理。


モットドッグプレス、通称モップレという

物々しく分厚い書物だが

その内容は時代遅れの恋愛マニュアル。


「そもそもあらゆる場所において

 壁際というのはモテるためのスイートスポット。

 壁ドンもされ放題という、まさに女神が微笑みし

 聖域、通称ゴッデスゾーンなのである…かぁ」


もはや時代遅れと表現するのすら心苦しい。

編集部と編集者は今すぐ名乗り出て

恥じた方が良いほどの内容である。



だが。



「壁ドンされ放題かぁ…むふ…むふふ…」


このポンコツサキュバスの琴線には

触れまくりだったようである。


「壁ドン…牛丼…ん? 壁丼?

 え、これ新商品のチャンスじゃない?」


謎の思考連鎖が起こり

ガバッと身体を起こす魔理。


「ひとりごとエグくない?」


するとキッチンで缶ジュースを飲んで

一部始終を見ていた大噛美瑠衣が

冷静にツッコむ。


「瑠衣さんっ?いつの間に…!」

「割とひとりごと多いよね、この

 シェアハウスのみんな」


グビッと缶ジュースを飲みながら

魔理の隣に座る瑠衣。


「ひとりごと聞かれるのって

 恥ずかしいんですよ?それこそ

 全裸でかくれんぼするくらいに」

「いや例えの方が強烈だし

 隠すとこ隠そ?」


瑠衣がローテーブルに置いた

缶ジュースが気になる魔理は

指でツンツンしている。


「瑠衣さん、これなんですか?」

「ジュースだけど…ちょっと

 ツンツンするのやめてくれない?」

「え、だって生きてるみたいじゃないですか」

「どこが?」

「フォルムが」

「フォルム」


そこそこ大きい円筒形、しかも

ビビッドな黄色いカラーリングで

スチールの硬さを誇る生き物を

想像できるだろうか。


全く想像できない瑠衣は

そこそこ本気で魔理に引いてしまう。


「あ、ほらしかもシュワシュワ言ってるし」

「あぁ、炭酸だからね。知らない?

 『些細なサイダー・ササイダー』って。

 結構売れてると思うけど」

「ふーん」


魔理は自身の髪を手で押さえ

缶に耳を近づける。


「あは。まだシュワシュワって

 鳴いてるー」

「鳴いてるって言うなて。

 生物感出るから」

「この子のど乾いたのかなぁ?」

「いやコイツがのどを潤す側なのよ。

 てかコイツって言っちゃうと

 もはや生物なのよ!」


だんだんと瑠衣のツッコミにも

熱が帯びてくる。

イラついていると言った方が

正しいかもしれない。


「もうあんたのせいでササイダー

 飲みづらくなっちゃったじゃん!

 何がしたかったワケ!?」

「ねぇ瑠衣さん」

「なに!」

「ひとくち ちょーだい」

「・・・」


可愛くおねだりする魔理の笑顔が

恐ろしく美少女めいていることに

瑠衣は怒りを通り越して呆れてしまう。


「…ここまで生き物感を出してから

 ひとくちちょうだいって

 よく言えるね…」

「だめですか?」

「いいけど…」


やったぁ!と缶をむんずと手に取り

ゴクッゴクッゴクッ

勢いよくササイダーをのどに流し込む魔理。


「ひとくちとは」


見事な飲みっぷりに瑠衣は

思わず吹き出してしまう。


「ヤバいね、魔理モ」

「ぷはーっ!美味しい~!

 ずっと飲みたかったんですよ、

 ヤバイダー!」

「ササイダーね。田舎の方言みたいに

 なってるから」



普通なら人の飲み物をひとくちどころか

飲み干してしまう愚行は

怒られて然るべきである。


だが魔理の天性の憎めなさには

思わず許してしまう魅力がある。


これが魔理本人のキャラクターなのか

サキュバスの持つ魔力なのかは

はかり知れないものであるが。



「瑠衣さんもジュースとか飲むんですね」

「え、飲むよ。なんで?」

「3流エロ雑誌の読モでもカロリーとか

 気にしないのかなぁと思って」

「地獄みたいに口悪いな!言っとくけど

 『eggかけライス』はピュアな

 ギャル雑誌だから!」


そう、

下世話な雑誌で溢れている界隈において

カワイイとオモシロに振った企画で

独自の路線を行くのが『eggかけライス』なのだ。


「そういえば瑠衣さんって読モやってる

 くらいだからモテますよね」

「んー、別にそうでもないけどなぁ」


もちろん街を歩いていれば

男子に声を掛けられることも

一度や二度ではない。


だがそれとモテるのとは

違うものなのだ。


「えー、だって瑠衣さんカワイイし

 スラッとしてるしツッコむし

 いい匂いするしツッコむじゃないですか」

「ツッコミ多め」

「それにほら瑠衣さん…

 ツッコむじゃないですか」

「いやしつこっ!

 何回言うのそれ!」


実際この人ツッコむしな…

と魔理は他に言葉が見つからないでいた。



「ただいま」


かつてないダンディボイスと共に

帰宅して来るのは影山狩宇である。


「おかえりなさーい」

「おかえり、シュウさん。

 今日遅かったね」

「ちょっと仕事がね…」


仕事。


それはダークハンターの仕事なのか

私立探偵としての仕事なのか。


どちらにしても仕事について

深堀するのはやめようと

ほぼ同時に心に決める魔理と瑠衣。


「ねぇねぇ、ちなみにさ、

 男子からしたらどんな女子が

 モテるもんなの?」

「ん?」


ふんふーん♪と鼻歌まじりに

手を洗っていた影山は

瑠衣の質問に手を止める。


「いや魔理モがモテたいらしいからさ」


突然話のネタにされた魔理は

顔を赤らめながらバッと立ち上がる。


「ちょっと瑠衣さん!それ男子に

 言っちゃダメですってぇ」

「いいじゃん、別にぃ」

「恥ずかしいじゃないですか、

 全裸鬼ごっこと同じくらいに!」

「いやだから全裸である意味は?」


ハンドタオルで手を拭きながら

リビングに戻って来る影山が

にこやかに会話に加わってくる。


「そもそも、なぜモテたいんだい?」

「え…それは…」


再びソファに腰かけながら

モップレをこそっと隠す魔理。


「人は誰しもモテたいものなのかもしれないがね、

 闇の住人にもそういう願望を持つ者がいるんだ。

 例えばそう……サキュバスとかな」

「っ!!」


息をのむ魔理。


その拍子に先ほど一気飲みした

ササイダーの炭酸によって

げっぷが出そうになるのを

こらえるのに必死だ。


(ダメ…!ここでげっぷは

 男子に嫌われるやつだ…!

 それに影山さん、サキュバスって…)



ありえないほどの鋭い指摘をする影山。


彼はすでに気づいているのだろうか?


そして魔理の正体とげっぷの行方は…?





読んで頂き、ありがとうございます!

ゆるい日常もダークハンターのひとことで

いつも緊張感がありますね…!


よろしければ


・ブックマークに追加

・下にある「☆☆☆☆☆」から評価

・面白ければ読後の感想コメント


して頂けると大変嬉しいです。

お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ