ep017
リビングから階段を上がると
ロフトというには広すぎる2階スペース。
中央にはテレビ鑑賞を楽しめるソファが置かれ
奥の方には仮眠にぴったりのベッドも
備え付けられている。
「いやぁ参ったなぁ…」
「わかる。マジやばい」
先の魔理と霧矢のように
気落ちしてソファに座るのは清と瑠衣だ。
「え?ルイルイは何がヤバいの?」
「ルイルイて」
「え?」
「初対面でいきなりあだ名ヤバくない?」
「へへーん。俺にとっては朝飯前」
「いやスゴイねって言ってるわけじゃなくて…」
独特の「俺」のイントネーションと
会話の噛み合わなさをものともしない、
それがキョンシー、清なのである。
「ていうかさ、ルイルイだって魔理モっちのこと
いきなり魔理モって呼んでたじゃん」
「あ、そういえば」
「ほらぁ、ルイルイも俺と同類!
ルイルイ同類!」
「無駄に韻踏んでくるじゃん」
「ルイルイ同類、ヒット打ったら
一塁に走塁、ファン感涙」
「野球カンケーなくね?」
清のリリックに軽い衝撃を受けながら
冷静にツッコむ狼女、それが瑠衣なのである。
「ふぅ。じゃ付き合おっか」
「急だわ。これが恋愛リアリティショーなら
秒で脱落してるよキミ」
「え~?自信あったのになぁ」
「マジでヤバい奴しかいないな、ここ…」
再び不安げな表情になる瑠衣。
自分の両足をきゅっと包み込むようにして
一層丸くなる。
会話が噛み合わない男子よりも
もっと注意すべき存在がいるからだ。
「ヤバい奴しかいないってさぁ、
あと誰がヤバかったの?」
「いやほら、あの影山狩宇って人。
ヤバくない?」
「あ、うん…そうだよね。うん、ヤバい」
影山の名前を聞いたことで
清も気持ちが震えてしまう。
ダークハンター。
瑠衣にとっても清にとっても
恐るべき天敵だ。
一瞬で空気が重くなり
黙ってしまうふたり。
すると、今まで気にも留めていなかった
たま子の笑い声が静かに聞こえてくる。
「あは…それは困りますよぉ」
「ん?」
瑠衣と清がベッドの方を見ると
和やかな雰囲気で笑みを浮かべる
たま子がいた。
ベッドに腰かけ誰かと話しているようだが
たま子は天井と壁辺りを見ている。
相手はいない。
不思議そうに見つめる瑠衣と清は
コソコソと言葉を交わす。
「あれ電話してるのかな、たまちゃん」
「電話か、じゃあワイヤレスイヤホンかな。
スマホ持って喋ってないもんね」
すると突然グルンと首を回して
瑠衣と清の方に向き直るたま子。
「スマホは持ってますよ」
「うわっ!」
その美しい顔立ちで奇怪な動きをすると
時に恐ろしさが際立ってしまうものだ。
まさにそれは幽霊のように。
「び、びっくりしたぁ。
聞こえてたの、俺たちの声」
「てかさ、たまちゃん誰かと
電話中じゃなかったの?」
「いえ、誰にも電話してませんよ?」
キョトンとするたま子。
その表情にキョトンとし返す瑠衣と清。
この空間には今、3人の男女が
キョトンとして顔を見合わせている。
「えっと…じゃ誰と話してたの?
何か笑ったりしてたよね?
あ、もしかして独り言?
独り言出ちゃう系女子?」
清が明るくまくしたてる。
しかしたま子から出てきた答えは
「地縛霊です」
YES.
JIBAKUREI.
「…は?」
瑠衣の表情にはコイツ何言ってんの?という
呆れを通り越した半ば怒りが浮かんでいる。
聞こえるはずのないコソコソ話に反応するわ
意味不明な回答をするわで。
透き通るような瞳と笑顔も薄気味悪い。
たま子はくすっと笑って
再び天井と壁の方に身体を向けた。
「大丈夫。悪い人たちじゃないみたい」
そう言って誰もいないはずの空間と
また世間話を始めてしまった。
「ヤバい奴もうひとりいたんだけど」
「どうしよ、俺こわい話とか嫌いなんだよな…」
ふたりには見えていないが
たま子の視線の先には確かに地縛霊がいた。
自らの死を受け入れられず
思いの残る土地や建物から
離れられなくなった霊魂。
たま子はしばしば人には見えない霊と
話し込んでしまい
それを当たり前のように振る舞ってしまう。
自らも幽霊であることはバレたくないはずだが
どうにもおっちょこちょいである。
とはいえ普通の人間なら
あるいは普通の人間だと信じている者なら
幽霊であると勘ぐることもない。
事実、瑠衣と清も同じ闇の住人に
幽霊がいることは承知しているが
まさかたま子がそうであるとは
露ほども思わなかった。
「こんなところにいたのか!」
「っ!?」
2階部分に響くかつてないダンディボイス。
そう、再びこの男、影山狩宇である。
今度こそ…
ダークハンターが行動を起こすのだろうか?
階段を上りきらずに顔の上半分だけを出して
彼の糸目はしっかりと3人に向けられていた…!
読んで頂き、ありがとうございます!
闇の住人は正体を隠し通せるのか?
そもそも影山は本当に彼らの正体に
気づいているのか?
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