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12/22

ep012

これは、シェアハウスでの共同生活から

4年前のとある夜。


ダークハンター影山狩宇の過去の物語(3.8/4)

決心を固めた影山は地面を蹴って飛び出した。


燈雨がドミーナに負けたわけではなかった。

恐らく絶望的ないくつもの可能性世界を見せられ

心が折れてしまったのだろう。

ドミーナの狡猾なやり方に屈しただけだ。


だからといって闇の住人と取引をするなど

言語道断。


あとで説教だ。


そう、あとで。


だから今狙うべきはドミーナだ。

燈雨はまだ人間の心が残っている。

ドミーナを始末し、燈雨に説教をし

どうにか血清と治療で戻してやる。


とにかく今はこの千載一遇のチャンスに

全てを賭けろ。

銃ほど剣の扱いは慣れていないが

あの魔剣さえあれば一太刀で終わる…!



そして今まさに魔剣に飛びつこうとした刹那。


突然、一陣の風のように現れた人影。

全身を黒い布で覆い、目深に被ったフードによって

誰なのかは窺い知れない。


何者だ?


今の今まで完全に気配を消していた。

それだけで相応の達人だと分かる。


その人影は一瞬で魔剣を拾い上げつつ

ドミーナたちへ斬りかかる。


動きの俊敏さに加え

足元からのジェット噴射によって

驚くべきスピードを自身に加えていた。


ダークハンターだ!


そのジェット噴射は間違いなく

ダークハンターツールスである

『AIR JET MAX 95'』だ。


救援部隊の誰かが駆けつけてくれたのか?

それにしては好戦的すぎる。


救援部隊はあくまでも

救援・サポートが仕事のはず。

それが我先に攻撃を仕掛けるだろうか?


しかもこの場にいる最強クラスの2人が

気配に気づけなかったほどの達人が

救援部隊であるとも思えない。



それよりも。



『AIR JET MAX 95'』だ。

人間の運動能力を飛躍的に高め

モンスター狩りのために作られた

()()()()のダークハンターツールス。


そう。

扱いが難しいため未だに影山兄弟しか

試験運用を認められていない。

狩宇と燈雨の2人だけが所有しているはずなのだ。


燈雨の方は改良型の『AIR JET MAX 97'』。

そして狩宇の方は初期型の『AIR JET MAX 95'』。


つまり、『95'』を装備しているのは

影山狩宇だけのはずなのだ。



それがなぜこの黒い布に身を包む人影が

装備しているのか。

ハッとしてドミーナの言葉を思い出す。



「ここにいるキミの弟の燈雨くんは

 別の可能性世界から連れてきた本物で」



別の可能性世界から

同一人物を連れてくる…?



そうか、それなら説明がつく。


瞬間、黒衣の人物のフードが

風にあおられガバッとめくれる。


はたして露わになった顔は影山が予想していた通り

()()()()だった。



別の可能性世界からやってきた、

影山狩宇その人である。



だが違和感もあった。


まずもって老けているのだ。


キリッと細い糸目や全体的な雰囲気は

自分そのものと言えるのだが

今の自分にはない髭をたくわえ、

髪の毛もピッチリ横分けになっている。


顔だけ見たら優しい近所のおっちゃん、

と思う者もいるだろう。


そこでまたしても影山は

ドミーナの言葉を思い出す。


「未来とか過去とか現在とか言ってる世界が

 すぐ隣に寄り添ってるって感じで」


「だからキミたち人間が時間っていう概念で

 一方通行に決めつけちゃってるけど

 全部そこにあるんだよ。2分前も10年先も

 5億年前も、今ここにあるの。可能性として」



つまり、この黒衣の影山は

我々人類が言うところの10年…いや

20年先の未来における可能性世界から

やって来たのだろう。



おぼろげながら理解が及んだ影山。

地面を蹴って飛び出した瞬間から

ここまで0コンマ数秒。


ドミーナと燈雨の射程範囲に入った黒衣の影山は

渾身の力を込めて魔剣を薙ぎ払う。


「え」


鈍い斬撃音と共に燈雨の首が跳ね飛び、

ドミーナの左腕が宙を舞った。



待て。


待ってくれ。


燈雨を…始末した?



「ちぃっ…!」


まるで懺悔の念も悲痛な感情も持たず

ドミーナを仕留め損なったことに

舌打ちをしながら再び剣を振りかぶる黒衣の影山。


「うざ」


すでに()()()()()()()()ドミーナは

残る右腕に魔力を込め迎撃の姿勢を取った。


ドンドンッ!


「は…?」


迎撃の姿勢を取っていた右手は吹き飛び

目を丸くして驚くドミーナの眉間も撃ち抜かれた。


目の前で弟を斬り伏せられつつも

かろうじてダークハンターとしての

責務と嗅覚を忘れずにいた影山は

最後の銀の銃弾を撃ち込んでいた。


影山のアシストを受け

黒衣の影山は彼を一瞥し

「見事な腕だ」

そう言うと一気に剣を振り下ろした。



漆黒の(ダークスカイ・)小旅行(トランジション)!」



叫んだドミーナは間一髪。

一瞬にして姿を消し黒衣の影山の斬撃をかわす。


「なにっ!?」


そして10mほど離れた場所に

再び出現する。

しかし両腕のダメージと眉間の銃創はそのままだ。


「その状態でかわすとは…

 恐ろしい奴だ」

「超ダサい技使っちゃった…

 マジ最悪なんだけど」


悪態をつきながら自らの後方に現れた

石造りのゲートに向かう。

簡易召喚型のステイションだ。


「あーあ。せっかくその子仲間になったのに。

 弟始末するとか、キミらの方がよっぽど

 血も涙もないよね」


無残にも転がる燈雨の首。

影山からはどんな表情をしているのか

見ることはできない。


「でも覚えたから、キミらの顔。

 マジ許さないからね」

「逃げるのか?ヘイザー家ともあろう者が」


はいはい、と、無い右手を振るドミーナ。


「そういう煽りは低級モンスターにどうぞ。

 普通に回復したいんで。帰りまーす」


そう言うとステイションと共に

空間から姿を消すドミーナ。


むしろ逆上して襲い掛かってきてくれた方が

まだ討伐の可能性があったものを。

さすがは名付きのモンスター、

さすがはヘイザー家のヴァンパイア。



ため息をつきつつ、燈雨の首元に立つ黒衣の影山。


「…兄さん…」


その掠れた声に驚き、影山も慌てて近づいた。


「まだ…生きていたのか?」

「人間じゃ…ないからね…」


ヴァンパイアと化した燈雨の目は充血し

苦しそうにはにかむ口元からは牙が見えている。


「そっちの兄さん…やるなら急いで。

 もう身体の治癒が始まっている…」

「あぁ。すまない、燈雨」


そう言うと、胴体の方に近づき

とまどうこともなく。

黒衣の影山は魔剣を心臓に突き刺した。



普通なら止めるかもしれない。

ヴァンパイアとはいえ我が弟を始末するなど。

躊躇なく弟の首を撥ね飛ばした黒衣の男に

銃口を向けることも考えた。


だが影山は見逃さなかった。


黒衣の男が突き刺した魔剣。

その握りしめる手は震えていた。

無慈悲にも思える行為から

彼の慈悲を感じたのだ。



人間の感情が残っている内に

弟を楽にさせてあげたいという想い。

行動は整然としているが

表情は悲しみに満ちていた。


闇の住人との取引などあってはならない。

弟は間違っていた。

間違いを正すのは兄の務めだ。

黒衣の男も、やはり兄なのだ。



ゆえに彼は

現実を、受け止めた。




サラサラと砂のように崩れていく燈雨の身体。

同調するように首の方も砂塵と化していく。


「燈雨…」

「兄さん…ごめんね…」


何かを語らうでもなく、あっけなく。

燈雨は消え去った。



「話さねばならないことがある」


感傷に浸る暇もなく

黒衣の男は影山に声をかけた。





読んで頂き、ありがとうございます!

ダークハンター影山狩宇の前日譚…

まさかのもう少しだけ続きます!

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未来から来た影山さんカッコ良すぎる! ダークスカイ・トランジション!で霧矢のシーンを思い出し、妹が超ダサい技って言ってる所を想像しただけでww(ドミーナと燈雨のCVが気になりますね) 燈雨!無念!あ…
[良い点] クスッと笑ってしまうコメディ系かと思えば、謎が深まって突然のミステリー系に!? でも謎が気になる! [一言] 毎週ペースの更新で楽しみな展開ですね!更新待ってます!
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