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10/22

ep010

これは、シェアハウスでの共同生活から

4年前のとある夜。


ダークハンター影山狩宇の過去の物語(3/4)

国道とは名ばかりのかろうじて舗装された山道。


朽ちかけたガードレールに山間から伸びた

枝葉が絡みついている。


車一台が走行できるほどの道路は

山に沿って曲がりくねり

必要最低限しかない電灯の光も

夜の闇に勝てず暗がりを引き立てている。


その内のひとつの電灯が

チカチカと消えかかっていた。

蛾の休憩所と化した淡い光が

ぼんやりと辺りを照らす。


そこには…


山道に似つかわしくないシルエット。

それは遠くから見れば抱き合う男女だ。



ひとけの無い山道で抱擁とは

何ともロマンチックな装いではあるが

どうやら色恋沙汰ではなさそうである。


なんせ一方的なのだ。


男はだらりと両腕を下げ

女はしっかりと抱き締めて

男の唇に自らの唇を重ねている。



男の表情を窺い知ることはできないが

女の方はとろけそうな表情を浮かべていた。


それでいて美しい銀色の前髪が

彼女のまつ毛に触れるたび

ゆったりとまばたきをする瞳は

燃えるような赤色に染まっていく。



ドミーナ・キス・ヘイザー。



情報では銀髪ツインテールの幼い少女という話だが

闇夜に浮かぶ彼女は妖しく艶やかで

まさに伝説上のヴァンパイアそのものだ。




燈雨(とう)…?」


絞りだすように、男の背中に声をかける影山狩宇。


すると背中で声を受けた男は

ドシャリ!と膝から崩れ落ち、

ドミーナに跪くような恰好になってしまう。


仄かに電灯に照らされるその男の顔は

間違いなく影山燈雨だった。



ドクン!と心臓の音が跳ね上がり

驚愕と恐怖と憤怒が同時に影山の身体を貫く。

だが次の瞬間。


目にも止まらぬ速さで特製の銃を引き抜き

ドミーナの眉間に2発の銃弾を撃ち込んだ。


「ちょっ!」


先ほどまでの妖艶な雰囲気とは打って変わって

少女のように目を丸くし驚くドミーナ。


彼女の眉間を弾丸が撃ち抜いた…と思われた刹那、

肉体は霧状の残像となり、弾丸は空を切り闇夜へと消えた。


すぐさま霧散した残像が3mほど離れた場所に集まり

再びドミーナの姿を形作っていく。


「ちょっといきなり撃つとかヒドくない!?

 こんなかよわい…」


言い終わらない内に影山はドミーナの懐に飛び込んでいた。

だが彼女は落胆したような表情を見せる。


「弱いくせに無鉄砲すぎ」


と呟き、黒いマニキュアを塗った鋭利な爪で

影山を薙ぎ払おうとする。


すると目の前にピンの抜かれた

閃光弾が浮かんでいることに気づく。

「は?この距離で?」


耳をつんざくほどの爆音と共に炸裂し

真っ白を超えるほどに上がる輝度。


世界から音と色を奪う兵器だが

影山は特殊な繊維で出来た黒いジャケットで体を覆い

衝撃波と爆風を何とか防いでいた。


一方ドミーナはモロに閃光を浴びてしまう。


「いっ…たぁぁーい!!」


目を覆いうずくまるドミーナ。

「ひど過ぎない!?なんなのマジで!

 何にも見えない!何にも…」

「サル芝居はやめろ」


冷静かつ深い怒りを含んだ影山の声に

ドミーナはピクリと反応し、身体を起こす。


そして躊躇せず自らの両目をくり抜いた。


「…!」

その行動に息をのむ影山。


「視神経が回復するのを待つのダルいよね」


そう言うとあっという間に両目が再生し

あどけない少女の顔に戻るドミーナ。

くり抜いた方の両目は霧のように消えていた。


「あ、見えた見えた。…あれ」


影山はいつの間にか燈雨を確保し、

ドミーナから距離を取っていた。


「ふーん、なかなかの行動力じゃん。

 その子がそんなに大切なの?」

「黙れ」

「はぁ?なにその態度ぉ」

「・・・」


改めてドミーナに注視する影山。


ゴシック調の黒いドレスにレースがあしらわれた

まさに吸血鬼という出で立ち。

肌の白さと銀髪がドレスの漆黒に対して

強いコントラストとなっている。


そしてコロコロと表情豊かに変わる顔は

綺麗だの可愛いだのでは表現できない、

ある種の妖気が漂っていた。


こいつがヘイザー家のヴァンパイアか。


影山は息を整えつつ、

絶望的なこの状況を棚に上げて

あらゆる思考を張り巡らせていた。


まず。

燈雨はまだ生きているという事実。


だが。

確実に吸血されてしまったという現実。


ドミーナに注意を払いながら

燈雨の様子を伺うと、息はしているものの

顔面蒼白になり目が充血していた。


これは吸血鬼になる前兆だ。


厳しい鍛錬によってダークハンターは

魔物の毒や攻撃に耐性を持っているとはいえ

一刻も早く血清を打たなければ

燈雨が燈雨ではなくなってしまう。


普通の人間ならば1分以内に毒がまわり

吸血鬼化してしまうところだが

燈雨であれば10分~15分は持ちこたえられるはず。



緊急チャンネルでダークハンターツールスの

『Air MAX Tag Now 92'』から救難信号は

発信しているが、どのくらいで救援が来るかは

全くわからない。


救援部隊はあらゆる治療薬や回復キットを持って

現場に急行することがルールとなっている。


ゆえに対ヴァンパイア用の血清も持ってくるはずだが

果たして間に合うのかどうか。


ハッキリ言って自分ひとりでは

この女に歯が立たない。


そもそも最強の男がやられてしまったのだ。

しかしなぜ?

数m先に転がっている禍々しい形状の剣を見やる。


負けるはずがないのに。

燈雨があの剣を持てば勝利が約束されていたはずなのに。


「その剣があれば、って思ってる?」

「!」


思考を見透かしたようにドミーナが問う。


「たぶん人間の中じゃその子超強い部類だよね。

 しかも魔剣も装備してたし。てか最強?」

「そうだ。この男は現代において最強の男だ」

「やっぱそうなんだ。大物だったんだね」


にこっと笑うドミーナ。

屈託のない笑顔に背筋を凍らせながら

どう足掻いてもこの状況を脱する策が

思いつかないことに影山は焦っていた。


その一方で

最強の男が最強の剣を手にしておきながら

完全敗北を喫してしまったことが

どうにも理解できない。


納得ができない。


「どうやってこの男に勝った?

 お前は魔剣と言っていたが…

 この剣を装備した状態の彼には

 誰だろうと勝てないはずだ」

「うん、そうかも」


認めるのか…?


余計に頭が混乱してしまう。

くすくすと笑うドミーナ。


「悔しいけど私じゃ勝てないし

 たぶんお兄ちゃんも無理だろうなぁ」

「言っていることが矛盾しているぞ。

 勝てないのなら、どうやったんだ!」


「勝つ方法はいくらでもあるよ」

「!」


突然、耳元でそう囁かれた影山。

いつの間にか背後にドミーナが立っている。

しかし目の前にもドミーナがいる。


残像か魔術か?


どちらにせよ全身に力を込め

次なる攻撃への防御と覚悟を決めた。


とその瞬間。


影山は自らがミイラのように

しわがれた身体になっていることに気づいた。


「ぬ…お…!これは…!?」


立っていることができず、その場にへたり込む。

突然エネルギーを吸われたのか?

何か攻撃をされたのか?

いや、そもそも…

ここはどこだ?

いま自分は何をしていたんだ?


考えようにも思考がまとまらない。

というよりも、さっきまでのことが

思い出せない。


考えるのも億劫だ。

もう寝てしまいたい…


「はっ!」


突然、ミイラのようだった自分の手に

生気が戻る。


そして頭もクリアになる。

何をしているんだ!

寝ようとしていたのか!?

バカな!

こんな恐ろしい女を前にして!

自分は…


「タイムトラベルはどうだった?」


再び距離を置いて立っているドミーナが

得意げに笑っている。

気づけば背後の彼女はもういない。


いや待て。


今、何と言った?


「正確にはタイムトラベルというより

 未来の可能性世界との邂逅、かな」


何を言っているんだ?

私は何か攻撃をされているのか?

くそ、落ち着け!

こんな時、燈雨なら…


「…?」


自分の傍らに確保していたはずの

燈雨がいない。


慌てて周りを見回す。

が、いない。

どこにもいない。


「燈雨っ!どこだ!どこに…っ」


なりふり構わず声を荒げていたが

ふと視線の端に何かをみとめ、

動きを止める影山。


ゆっくりと焦点距離を合わせてみる。



にっこりと笑うドミーナの横。

燈雨が寄りそうように立っていた。


「燈雨…?」


「…兄さん」


「ふふ。ちょっとむつかしーことが起きてるね」



ドミーナがおどけるように微笑んだ。




読んで頂き、ありがとうございます!

不可思議なことが起きています!

次回、過去編は一旦の区切りに…!

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