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それから数か月たった頃だ。栄作はいつものように仕事をしている。深夜3時になれば、またここに来て、仕込みをしなければならない。それが自分の仕事だ。この味を守るためにしていかなければならない。自分はその仕事に誇りを持っている。
「さて、今日も終わったな」
栄作は深く息を吸った。今日も頑張らなければ。
と、携帯電話が鳴った。誰からだろうか? 望だろうか? それとも、それ以外の人だろうか?
「ん?」
栄作は携帯電話の着信を受けた。
「もしもし」
「明日香です」
明日香だ。こんな時間にどうしたんだろうか? 何か言いたい事があって、電話をかけたんだろうか? 栄作はびっくりしている。こんな時間に電話をかけるからだ。
「どうした、明日香」
「私、結婚しようと思うの?」
それを聞いて、栄作は驚いた。明日香が結婚するとは。誰と結婚するんだろうか? 明日香は高校を卒業後、東京に行ったと聞いている。
「えっ、本当?」
「うん」
栄作は気になった。誰と結婚するんだろう。まさか、薫と結婚したって事ではないだろうな。もし、薫と結婚するようなもんなら、もう縁を切ろうと思っている。
「どんな人と結婚するんだ?」
「会社の同僚で、保志さんっていうの。とても優しい人なの」
それを聞いて、栄作はほっとした。前科のある人、特に薫だったらどうしようと思ったが、そんな人ではないようだ。会社の同僚で、いい人のようだ。
「そうか。幸せになれよ」
明日香は思った。この時間、両親は忙しいだろう。答えられないだろう。両親に結婚式に来てほしいかどうか聞かないと。
「お母さん、お父さんにも言ってほしいんだけど、結婚式、出席してほしいなと思って」
「そうか。言っておくぞ」
栄作は笑みを浮かべた。明日香も結婚するとは。本当に嬉しい出来事だな。後は望が結婚すれば完璧なんだけど。
「ありがとう。じゃあね」
電話が切れた。その横には、安奈がいる。明日香からの電話だと知って、やって来たようだ。
「どうした?」
「明日香が結婚するんだって」
それを聞いて、安奈は喜んだ。やはり、明日香が結婚するようだ。俊作に続いて、めでたい出来事だ。
「そっか」
「で、結婚式に両親も出席してほしいって」
安奈は行きたいと思っている。夫はどうだろう。来るんだろうか? それとも、来れないんだろうか? まぁ、来ると思うけど。愛する娘の結婚式だから。
「本当?」
「うん」
ふと、安奈は横を向いた。そこには俊介がいる。その会話を聞いていたようだ。明日香が結婚するというのを知っているようだ。
「じゃあ、出席しようかな?」
「そう。いいじゃない」
2人は結婚式に参加するようだ。栄作はその様子を、じっと見ていた。自分も参加してみようかな? そして、自分のうどんをふるまうってのはどうだろう。みんな、喜ぶだろうな。
その夜、明日の支度をしている栄作の元に、俊介と安奈がやって来た。何か言いたい事があるんだろうか? まさか、結婚式に出席したいので、その日は休みたいと言うんだろうか? 今日のお昼の会話から、そのように思える。
「どうした?」
「明日香が結婚するんだけど、結婚式に出席してもいいですか?」
やはりそうだ。自分としてはいいけど、こっちも出席しようかな?
「いいぞ。その時になったら知らせてくれ」
「ありがとうございます」
2人はお辞儀をした。と、大将は何かを言いたそうに見ている。どうしたんだろうか? 安奈は気になった。
「なぁ」
「大将、どうかしたんですか?」
「その結婚式、俺も出席して、うどんをふるまうってのはどうだ?」
まさか、明日香の結婚式に栄作も出席するとは。まさか、結婚式で自分が作ったうどんを振る舞うんだろうか?
「いいじゃん! 来てよ!」
「わかった。望にも言っとくね」
これは望にも言わないと。ひょっとして、望も来てくれるかもしれない。俊作の時もそうだった。今回も来てくれるんだろうか?
「ありがとう」
望だけではない。俊作にも言わないと。弟の俊作も出席するだろうな。
「俊作にも言わないとね」
「そうだね」
と、そこに望がやって来た。望はまだ後片付けが済んでいなかったようだ。
「どうしたの?」
「明日香が結婚するんだって」
それを聞いて、望は驚いた。俊作に続いて、明日香も結婚するとは。どんな人だろうか? とても気になるな。
「そうなんだ・・・」
だが、望は浮かれない表情だ。いつになった自分も恋に恵まれ、結婚に至れるんだろうか? 高校の頃、失恋しているから、本当に成就するのか心配だ。
「どうした?」
「いつになったら結婚できるのかなと思って」
栄作はとても気にしている。以前、失恋した事があるからだ。今度はうまくいくんだろうか? 突然、栄作は望の肩を叩いた。何だろう。望は顔を上げた。
「いつかいい人が現れるさ。その時を待とう」
「うん・・・」
いつもそうだ。本当に現れるんだろうか? 望は疑わしいような目で見ていた。




