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  作者: 口羽龍
第5章 一緒に
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6

 それからしばらく経った夜の事だ。俊作は池辺家に呼び出された。何か言いたい事があるんだろうか? 呼び出したのは、望だ。何か言いたい事があるんだろうか? 結婚に関する事だろうか? 昨日、両親に結婚を話したので、それを確認するためだろうか?


「どうしたの?」

「俊作くん、結婚するの?」


 望は後ろを振り向いている。望は俊作がうらやましいと思っていた。まだ自分は恋に恵まれない。高校の時に、養子である事が原因でフラれてしまった。その時のショックがいまだに大きい。僕は本当に結婚できるんだろうかと思ってしまう。


「うん。うらやましいの?」

「うん」


 やっぱりうらやましいようだ。以前、フラれた事があるのを、俊作は知っている。あの時はとてもショックだっただろうな。結婚なんてできないだろうと思っただろうな。


「いつか、望くんにもいい人が現れるよ」

「本当かな?」


 望は首をかしげた。本当にできるんだろうか? 望は疑問に思っていた。


「きっとだよ。だって、うどんの腕がうまいんだもん」


 だが、俊作はいい人が現れると信じている。だって望は、うどんを作るのがうまいから。栄作の後継者だと言われているから。いつか次の大将になるだろうと思われているから。


「うーん・・・」


 だが、望は疑わしい。それだけでは結婚できないと思っている。


「どうしたの?」

「それ以前に、自分は本当の息子じゃないから」


 やっぱりそうか。それで引っかかったもんな。小学校1年生の頃にはそれが原因でいじめられたっけ。すぐに解決したけど。


「そうだね。だけど、大将の息子という事に変わりはないんだ」

「そう・・・、だよね・・・」


 望は不安そうな表情になった。大将からはかわいがられているのに、女性からは見向きにされない。本当につらいな。


「不安なの?」

「うん」


 突然、俊作は望の肩を叩いた。望は顔を上げた。どうしたんだろう。


「落ち込むなよ。絶対にいい人が現れるさ。信じようよ」

「うん・・・」


 そして、俊作は去っていった。望は俊作の後ろ姿をじっと見ていた。いつか僕も、誰かと結婚できるんだろうか? どんな人と結婚できるんだろうか? 全くわからないけれど、その時が来るのを待とう。僕はうどん作りがうまい。その腕を見たら、みんな惚れて、結婚したいと思えるだろう。




 それから1か月後、俊作と留美は高松の結婚式場で結婚式を挙げた。挙式には新郎新婦それぞれの両親はもちろん、会社の関係者、そして池辺うどんの大将、社員もやって来た。もちろん望もだ。みんな、今日という日を楽しみにしていた。そして、新郎新婦も楽しみにしていた。


「俊作、結婚おめでとう」


 俊介は祝福している。その隣にいる安奈も笑顔だ。そして、周りにいる人々はみんな、幸せそうな表情だ。結婚式は誰でもそんな日だろう。


「ありがとう」


 ふと、俊介は考えた。俊介はどんな孫を迎えるんだろう。どんな孫を迎えるかわからないけれど、かわいい孫がいいな。いい子に育ってほしいな。


「早く父さん、孫が見たいな」

「そうね」


 安奈もやがて生まれてくるだろう孫に期待していた。


「これからどんな夫婦での日々、送っていくのかな? わからないけれど、いい思い出作りたいな」

「そっか・・・」


 望は幸せそうな表情だ。だが、心の中ではうらやましそうだ。望はその表情を見せないようにしていた。


「うらやましいのか?」


 望は横を向いた。話しかけたのは栄作だ。栄作はいつも頑固そうな顔だが、この時は幸せそうな表情だ。こんな顔の栄作は、入学式や卒業式ぐらいしか覚えがないな。


「うん。いつか、僕も誰かと結婚したいな」

「誰と結婚するんだろうね」


 栄作は思っていた。果たして望は、どんな人と結婚するんだろうか? どんな人と結婚するのかわからないけれど、優しい人がいいな。そして、薫みたいに道を踏み外すような事がなければいいんだけど。


「想像できないけれど、どんな人だろうね」

「思いやりのある人かな?」


 望は適当に答えた。どんな人と結婚したいなんて、全く考えた事がなかった。ただ単に、いい人と巡り会えて、結婚できればそれでいいと思っていた。


「どうだろう」


 栄作は少し笑みを浮かべた。どんな孫を設けるんだろうと思った。きっとかわいいんだろうな。僕たちが作っているうどんをとても気に入るんだろうな。


 ふと、望は思った。栄作が結婚した時って、どんな感じだったんだろう。ぜひ教えてほしいな。


「どうしたの?」

「大将が結婚した時って、どんなんだろう」


 俊介は少し考えた。まさか望から聞かれると思わなかった。それについて、全く準備していなかった。


「わからない」

「まさか、あんな子を設けると思わなかっただろうな」


 それを言うと、栄作の顔が怖くなった。薫の事を考えるだけで、頭に来るようだ。もう言わないようにしよう。仕事に影響するだろうから。


「薫・・・」

「どうしてそんな子に育ったのかと思っただろうな」


 栄作は思った。確かに、俊介の言うとおりだ。あんなに愛情を込めて育てた薫が、犯罪を犯してしまうとは。俺はこんな息子に育てたつもりはない。もう会いたくない。ずっと東京にいろ!


「そうだね。また帰ってきてほしいね」


 それを聞いて、栄作は望を睨みつけた。まだそう思っているのか。どんなに帰ってきても、俺は力ずくで追い出してやる! 二度と会いたくない!


「本当にできるのかな?」


 俊介は出来ないだろうと思っていた。本当は帰ってきてほしいのに、栄作がそうさせないから。いつになった一緒に仕事ができるんだろうか?


「わからないけれど、奇跡を信じよう」

「うん・・・」


 望と栄作、俊介は暗い表情になってしまった。今日はめでたい日なのに。笑っていなければならないのに。

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