表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 口羽龍
第4章 養子と実子
87/87

22

 薫は下を向いて、滝宮駅までの道のりを歩いていた。結局、追い出されてしまった。もう、栄作との縁は修復できないんだな。いつまでも東京で働かなければならないんだな。故郷に帰れないんだな。今さっきの事を思い出すと、下を向いてしまう。栄作の顔を思い出すだけでも、落ち込んでしまう。


 薫は滝宮駅から高松築港行きの電車に乗った。電車は元京急の電車で、どこか親近感がわく。だが、ここは高松だ。関東を離れ、第2の人生を送っている。自分もここに戻れたら、幸せなのにな。栄作が生きているうちは、それができないだろう。悲しいな。


 いつの間にか、薫は眠ってしまった。思い出すのは、実家で過ごした少年時代だ。あの頃に戻りたいのに、もう戻れない。あの頃の優しい栄作はもう戻ってこない。自分はこれからどうすればいいんだろう。全くわからないな。


 目を覚ますと、電車は片原町駅を後にしていた。終点の高松築港駅はもうすぐだ。薫は慌てて支度を始めた。商店街を抜け、広い道路が見えてきた。その先には高松築港駅が見える。


 電車は終点の高松築港駅に着いた。薫は降りて、高松駅に向かった。結局、あっという間に東京に帰ってしまう。もっといたかったのにな。そして、栄作に謝りたかったのにな。そう思いながら、高松駅までの道のりを歩いている。


 薫は快速マリンライナーに乗った。薫はぐったりとしていた。とても疲れている。どうしてかわからない。栄作に追い出されたので、へこんでいるんだろうか? いや、もっと別の理由があるのかもしれないな。まぁ、深い事はもう考えないようにしよう。自分はこれからも東京で頑張っていこう。そして、いつか故郷に帰りたいな。だが、それはいつになるんだろう。


 快速マリンライナーは高松駅を後にした。乗っている人々は楽しそうだ。彼らは旅行を楽しんでいるんだろうか? とても楽しそうだな。自分もこんな家族を持ちたかったな。うらやましく思いつつ、薫は流れる車窓を見ていた。子供の頃からなじみのある風景、のどかな風景の中にあるうどん屋、これが香川県の農村の風景だ。毎日のように見てきて、いつもの光景だったのに、東京に行って、逮捕されて、栄作と縁が切れてしまってからは、遠い記憶の風景になってしまった。またそれはいつもの風景になるのはいつだろう。


 快速マリンライナーは瀬戸大橋を渡り始めた。夕日が沈んでいく。東京の変えるのは夜になりそうだ。結局、また本州に戻ってきてしまった。自分はもう東京の人間なんだと思ってしまう瞬間だ。


 快速マリンライナーは終点の岡山駅に到着した。薫はここで降りて、山陽新幹線に乗る。薫は電光掲示板の『東京』の文字を見た。東京という2文字を見るだけで、下を向いてしまう。いつまで東京にいるんだろう。香川県に帰りたいのに。


 薫が東京行きののぞみに乗る頃は、すでに辺りが暗くなっていた。高松の街の光は全く見えない。見えるのは、岡山の街の光だ。もう高松は見えない場所になったんだ。薫は下を向いた。今度、その風景を見るのはいつだろう。いつか帰りたいな。


 のぞみは岡山駅を後にした。車内には家族連れが多い。彼らはとても楽しそうだ。望も明日香も、いつかこんな家庭を築くんだろうな。自分はこんな家庭を持つ事なんて、できないだろうな。一生孤独のまま終わってしまうだろうな。こんな家庭を持ちたかったのに。あの時、過ちを犯していなかったら、こんな家庭を持っていたかもしれないのに。どんなに悔やんでも、もう遅い。縁を切られてしまったし、もう故郷には帰れない。


 薫は高速で流れる車窓を見ていた。すっかり暗くなり、全く見えない。故郷もこんな夜だったな。東京とは正反対で、夏は昆虫の鳴き声がよく聞こえる。薫は故郷に思いをはせていた。遠くて近い故郷、帰りたくても帰れない。あまりにも悲しいな。


 夜10時過ぎ、のぞみは終点の東京駅に着いた。薫はため息をついて、新幹線から出た。また東京に帰ってしまった。東京駅の赤レンガ駅舎を見るたびにそう思ってしまう。上京した頃には、わくわくしていたのに、今となってはため息をついてしまう。また帰ってきたんだ、故郷から遠く離れてしまったんだと思ってしまう。あまりにも残念だな。


 薫は在来線を乗り継いで、自宅に戻ってきた。いつもの自宅だ。だが、いつも以上にそれを見て、落ち込んでしまう。普通に見ている光景なのに、どうしてだろう。故郷ではないからだろうか? 薫は手を洗うと、すぐに横になった。長い道のりだったけど、結局何の収穫も得られずに帰ってきた。今度、故郷に来るのはいつだろう。いつになったらまた故郷で暮らせるんだろう。そう思いながら、薫は目を閉じた。そして、東京の夜は更けていく。


 薫が東京に着いた頃、栄作は薫の写真を見ていた。栄作は厳しい表情だ。また薫が許せないようだ。もう帰ってくるなと言ったのに、また来た。栄作はわかっていた。どうせ望の姿を見に来たんだろう。薫の想いはわかるが、会わせたくない。そして、ここに戻ってきてほしくない。その気持ちは変わらない。一生、東京で働いていろ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ