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  作者: 口羽龍
第4章 養子と実子
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 薫を乗せた快速マリンライナーは岡山駅を出発した。ここ最近、何度も通っている。どうしてだろう。望に会ってからだ。あの子はとても優しい。前科がある僕にも優しく接してくれる。この子となら、一緒に仕事をしてもいいな。でも、栄作がいる限り、それはかなわないだろう。


 快速マリンライナーは本四備讃線に入り、トンネルの連続する区間に入った。トンネルの車窓を見ていると、刑務所にいた頃を思い出す。あの頃は苦しかったな。好きな事ができないし、栄作と縁を切られてしまった。とんでもない事をしてしまったと後悔する毎日だった。だけど、今僕はこうして店長として頑張っている。だけど、いまだに自分の目標を達成できないままでいるし、かないそうにない。あの時の後悔が今でも自分に響いている。それは一生続くだろう。そう思うと、薫は自然と肩を落としてしまう。


「父さん・・・」


 薫はポケットから栄作の顔写真を見た。栄作はとてもいい笑顔をしている。だが、それは自分が逮捕される前の頃だ。あの頃は仲が良かったのに。今ではもう縁を切られてしまった。もうあの頃は戻ってこないだろう。


 快速マリンライナーは瀬戸大橋に入った。渡りきると、その先は四国だ。そう思うと、びくびくしてくる。また栄作に追い出されるんじゃないかと思えてくる。つらいけれど、それは自分が悪いんだ。しっかりと罪を償わないと。だけど、それは一生かけて償う罪であって、一生十字架を背負わなければならないだろう。


「また来てしまった・・・」


 薫はため息をついた。結局、また四国に来てしまった。もう帰らないだろうと思っていたのに、ここ最近何度も来ている。そう思うと、四国が身近に見えてくる。だが、栄作とは縁を切られている事を考えると、修復できないだろうと思って、下を向いてしまう。


 快速マリンライナーは終点の高松駅に着いた。それとともに、多くの乗客が降りる。薫はここから琴電に乗って、滝宮へ向かう。もう何度通ったんだろう。故郷なのに、薫は笑顔にならない。どうしてなのかはわかっている。栄作には、もう香川県に戻ってくるなと言われたからだ。


「着いた・・・」


 薫は高松駅を出て、高松築港駅に向かった。薫は小春日和の中を歩いていた。その中には、かわいい子供たちの姿がある。彼らは1年生だろうか?彼らはとても楽しいだろうな。薫は小学校に入学したての頃を思い出した。あの頃はとても楽しかったな。両親の愛情に包まれて、充実した小学校生活のスタートを切られた。6年間はとても充実したものだった。学級委員長にもなった。その頃は、将来逮捕される未来なんて、全く予想できなかっただろうな。


 薫は琴電琴平行きの電車に乗った。薫は懐かしい気持ちになった。これは、大学生の頃によく乗った京王帝都電鉄の電車だ。あの頃に走っていた京王の電車が、ここで活躍しているとは。


 電車は高松築港駅を後にした。乗客はまばらだ。データイムだからだろう。朝のラッシュはとても混雑するんだろうな。でも、東京に比べるとそんなに多くないだろうな。ふと、薫は思った。彼らは、東京の朝ラッシュを見て、どう思うだろう。きっとびっくりするだろうな。


 薫はいつのまにか寝てしまった。その間にも、電車は瓦町駅を後にして、滝宮に向かっていた。その中で薫が見るのは、栄作と過ごした日々だ。できればあの頃に戻りたいな。だけど、もう元に戻れない。


 薫が目を覚ますと、そこはすえ駅だ。滝宮駅まではあと少しだ。薫は慌てた。


 電車は滝宮駅にやって来た。滝宮駅はのどかな駅だ。何度も来ているのに、懐かしい気持ちになる。どうしてだろうか?


「ここか・・・」


 薫は池辺うどんに向かって歩き出した。ここまでの道のりを歩く人はまばらだ。だが、池辺うどんに近づくと多くの人が集まり、行列ができているだろう。行列ができるのは、だいたい予想できる。


 しばらく歩いていると、池辺うどんが見えてきた。今日も行列ができている。さすが人気店だ。ここで働きたかったのに、働けない。望はとてもまじめっぽい。あの頃の自分とは正反対だ。今は真面目になったのに、信頼を取り戻す事ができないだろう。


「また帰ってくるとは・・・」


 薫は行列に並び始めた。その中には家族連れもいる。彼らは旅行でここに来たんだろう。とても楽しそうだ。自分もこんな家族を持ちたかったなとつくづく思う。だけど、自分には家族なんてできないだろう。だって、こんな過去を持っているのだから。


 1時間ほど並んで、ようやく店内には入れた。今日も店内は混んでいる。高松製麺よりもずっと多くの人が来ているな。自分もこれぐらいの人々をさばきたかったな。


 自分の注文の順番が回ってきた。注文を受けるのは、俊介だ。俊介は薫が来たのを知っていた。だが、栄作には伝えなかった。普通の表情をして、栄作に会わせないように気を付けているようだ。


「ひやあつのかけ並で」


 俊介はすぐに盛り付けて、薫に渡した。


「はい、どうぞ」


 薫は野菜かき揚げを取って、すぐにカウンターに向かった。栄作に気付かれないように、こっそりと退店しようというのだ。


 栄作は何かの気配を感じ、振り向いた。そこには薫がいる。もう帰ってくるなと言われたのに、また帰ってきた。懲りない奴だな。


「あの子か・・・」


 薫は会計を済ませ、すぐに食べ始めた。早く食べ終わらなければならない。薫は焦っていた。


「おい・・・」


 その声で、薫の背筋が立った。栄作の声だ。まさか、見られたのかな?薫は横を向いた。そこには栄作がいる。


「父さん・・・」

「出ていけ!」


 栄作は薫を引っ張り出した。まさか、店から追い出されるとは。


 栄作は出口に出ると、薫を突き飛ばした。薫は下を向いている。


「うわっ・・・」

「二度とここに帰って来るな!」


 栄作は厨房に戻っていった。栄作は頭にきている。また息子が帰ってきた。もう帰ってくるなと言ったのに。


「もう会いたくないわ・・・」


 薫は呆然としている。やっぱり追い出されてしまった。また一緒に仕事がしたいのにな。


「大丈夫?」


 その声で、薫は振り向いた。そこには望がいる。望は白い服を着ている。仕事中のようだ。


「望・・・。こんな俺でごめんな・・・」


 望は薫の頭を撫でた。まさか撫でられるとは。栄作と違って、望はとても優しいな。望となら、一緒に仕事がしたいな。でも、栄作がいるのでそれはできない。

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