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  作者: 口羽龍
第4章 養子と実子
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18

 3月31日、いよいよ明日から正式に池辺うどんに就職する。以前から手伝いはしていたものの、いよいよ明日から正式に働くことになる。より一層、そして栄作の後を継ぐために頑張らなければ。望は気合が入っていた。


 前夜、望は外を見ていた。視線の先には池辺うどんがある。今日の営業はとっくに終了していて、店内は暗い。深夜3時になると、また栄作がやって来て、仕込みを開始するだろう。いつか自分もこれをするんだろうな。そう思うと、もっと頑張らなければと思えてくる。


「望・・・」


 望は振り向いた。そこには栄作がいる。そろそろ栄作は寝ると思われる。次に会うのは、朝に出勤した時だろう。


「大将・・・」

「明日からだな」


 栄作は笑みを浮かべていた。もうこの代で店は終わりだと思っていた。だが、育てる事になった子供が成長して、継いでくれるだろう。それだけでもとても嬉しい。薫の事はもう知らない。ずっと東京で孤独に働いていればいいだろう。


「うん」


 突然、栄作は望の肩を叩いた。望は驚いた。


「頑張れよ。いつか俺の後を継ぐんだからな」

「はい」


 望は気合が入った。期待されている。頑張らなければ。そして、その味、技を次の世代に伝えていかないと。


「おやすみ」

「おやすみ」


 栄作は寝室に向かった。望は栄作の後ろ姿を見ている。いつか自分も、これを経験するだろう。でも、それはいつになるんだろう。その時まで、心の準備をしておかなければ。


 ほどなくして、望はベッドに横になった。明日はいよいよ入社だ。気合を入れないと。




 翌日、望は目を覚ました。いよいよ今日から社員だ。とても気合が入る。ここまでいろんな日々があったけれど、こうして就職する事ができた。だが、それで終わりではない。栄作の後を継げるようになって、その味、技を後世に伝えるのが目標だ。


 望は1階に向かった。いつものように朝食を食べる。高校生になって、ここに住み始めてから、朝食は自分で作っている。これも仕事のためだと思っている。作るものは違うけれど、きっとこれは後に生かされてくるだろう。


 望は朝食を作り終え、朝食を食べ始めた。朝食はみそ汁とごはんだ。いつもそうだが、みそ汁の中身はいつも違う。昨夜の夕食の野菜の残りを使う。これが定番だ。


 と、そこに朝の仕込みの一部を終えた栄作がやって来た。


「おはよう」

「おはよう」


 望は緊張している。いよいよ今日からだ。栄作はどんな反応をするんだろう。


「いよいよ今日からだな」

「うん」


 望は口がぎこちない。今日から問う事で、緊張しているんだろう。栄作にもわかる。だが、徐々に慣れていって、いつか自分の後を継ぐだろう。


 と、そこに俊介と安奈がやって来た。中学校まで育ててくれた2人、これからは先輩と後輩だ。今日から立場が変わるけれど、いつも通り接していこう。


「お、おはようございます」


 望はここでも緊張している。


「おはよう。いよいよ今日からだな」

「はい」


 望は朝食を食べ終え、歯を磨き、少しリビングでくつろいでいた。出勤までは少し時間がある。その間も、望の様子は普通じゃない。やはり、今日から社員だからだろう。


 8時40分ぐらい、望は池辺うどんに向かった。そこまでの道のりはそんなに遠くない。家の隣だからだ。だが、遠く見える。びくびくしている。とても緊張しているようだ。


 望は池辺うどんに入った。するとそこには、俊介や安奈がいる。その他にも、何人かの従業員がいる。だが、彼らは望を見て何とも思っていない。以前から手伝っていて、望の事をよく知っている。


 と、そこに栄作がやって来た。栄作はいつも以上に硬い表情だ。今日から望が社員になるからだろう。


「えー、今日から正式にここで働くことになった、池辺望くんだ」

「池辺望です。よろしくお願いします」


 望がお辞儀をすると、従業員が拍手をした。みんな、望を官営しているようだ。将来の跡継ぎだからだろう。そう思うと、望は気合が入る。僕はこの店の跡継ぎなんだ。頑張らなければ。


「よろしくな!」


 そして、望は池辺うどんで働き始めた。だが、以前から手伝いとして働いているので、やる事はよく知っている。従業員も、それが普通だと思っているように見ている。


「なかなか慣れてるな」


 望に従業員の1人、谷が話しかけてきた。谷は琴平町のうどん屋の店主の次男で、店を継いだ長男とは違い、ここで働き、独立する事になった。


「ああ。高校時代から休日を中心に手伝ってるからね」

「そっか」


 谷は驚いた。谷は望の事を知らなかった。手伝っているのは土日祝日のみ、谷は平日だけ働いているからだ。谷は望よりやや長く働いているが、望の事をよく知らなかった。


 突然、谷は誰かから肩を叩かれた。振り向くと、そこには栄作がいた。


「この子は期待できるな。絶対にここを継げられるだろう」

「そうだね」


 そして、望は社員としての第一歩を踏み出した。これから自分は、いろんなことを経験していくだろう。そして、いつの日かここを継ぐことになるだろう。でも、それはいつになるんだろう。わからないけれど、それまでに様々な事を学ばないと。

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