表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 口羽龍
第4章 養子と実子
81/87

16

 その夜、望は薫の事が気になっていた。まさか、栄作が薫に出会ったとは。縁を切られてしまったというのに、どうして会いに行ったんだろうか? まさか、もう継がせない、香川県に帰るなと言ってきたんだろうか? とても気になるな。後日、その理由を聞きたいな。


 望は受話器を取り、薫に電話をした。何があったのか、話してほしいな。もし、落ち込んでいるようなら、励ましたいな。


 その頃薫は、自宅でのんびりしていた。先日、栄作に出会った。栄作はいまだに、継がせないと思っているようだ。残念だけど、自分が悪いんだ。あんな事をしていなければ、自分は今頃香川県で栄作と一緒に讃岐うどんを作っていたのに。


 突然、携帯電話が鳴った。誰からだろうか? 薫は画面を見た。実家からだ。どうしたんだろう。薫は電話に出た。


「もしもし」

「望です」


 薫はほっとした。望のようだ。その声は、望にも聞こえた。栄作ではなかったと知って、安心したようだ。


「どうした?」

「大将が店に来たの?」


 薫はギクッとなった。栄作が会いに来たのを知ったようだ。誰にも言わないと思っていたのに。おそらく、栄作から聞いたんだろう。


「うん」


 薫はうなずいた。やっぱり会っていたようだ。どんな気持ちだったんだろうか? もう会いたくないと思っていたのに、会ってしまった時は緊張しただろうな。


「どうだった?」

「緊張した」


 やっぱり緊張したようだ。そりゃそうだよな。栄作は表情が硬くて、とても怖い。それに、薫とは縁を切られているからな。


「そっか。香川に戻れないんだね」

「うん」


 望は残念がった。やっぱり薫は香川県に帰れないんだな。帰っても、栄作に追い出されるだろうな。でも、それは自分の犯した事が原因だ。一生かけて償わなければならない。故郷に帰れない事も、1つの罰だろう。


「僕は帰ってきてほしいと思ってるんだけど。だって、大将の息子なんでしょ?」

「ああ。だけど、俺はもう帰れないんだ」


 望は帰ってきてほしいと思っているようだ。それを聞いて、薫は安心した。だが、どんなに頑張っても、栄作は許してくれないだろう。そう思うと、薫は下を向いてしまった。


「あきらめないで!」


 望の強い声で、薫は背が立った。だけど、すぐに下を向いてしまった。やはり栄作の事を考えると、落ち込んでしまう。忘れたいのに、忘れられない。


「・・・、わかった・・・」


 電話は切れた。それを確認して、薫も通話を切った。


「はぁ・・・」


 薫はため息をついて、窓の外を見た。窓から見えるのは、東京の夜景だ。今頃、望も同じ夜空を見ているだろう。だけど、2人の距離はあまりにも遠い。栄作との距離は望と変わらないものの、もっと遠く感じる。




 翌日、薫はいつものように高松製麺で働いていた。先日はいろいろあったけれど、仕事を頑張らないと。本場香川県の味を東京の人々に伝えるのが、自分の使命なんだ。その為に、僕は頑張っているんだ。たとえ香川県に帰れなくても、ここで頑張っている事に意義があるんだ。だけど、また香川県に帰りたいな。


 と、そこに1人の女性が入ってきた。明日香だ。明日香を見て、薫は驚いた。あの人は俊作と安奈の娘、明日香ではないか? どうしてここに来たんだろうか? たまたまだろうか? それとも、ここで働いているのを知ったからだろうか?


「あれっ・・・」

「薫さん?」

「そう、だけど・・・」


 明日香も薫に反応した。やっぱりここで働いていたのか。けっこう頑張ってるな。店員や客からの評価はどうだろう。


「父さんに会ったの?」

「うん・・・」


 やっぱり栄作に会ったようだ。とても緊張しただろうな。本当は会いたくなかったのに。まさか会うとは思わなかっただろうな。私もそうだった。まさか栄作がやって来て、一緒に寝るとは。そして何より、薫が都内の高松製麺で働いているとは。


 明日香は気になった。栄作とは縁を切られているらしいけど、まだ縁を切られているのかな? もしそうなら、香川県に帰れないだろうな。また、香川県で栄作と一緒に働いている姿を見たいのに。


「どうだった?」

「まだ仲直りできない・・・」


 明日香はため息をついた。まだ縁を切られているようだ。もう一緒このままだろうか? また香川県で頑張ってほしいのにな。それは望も、おそらく両親も一緒だろうな。


「そうなんだ・・・」


 ふと、明日香は考えた。今夜、一緒に飲まないかな? 栄作と出会って、いろいろつらかっただろうけど、そのつらさを一緒に飲んで晴らそうじゃないか?


「そうだ! 今夜、飲まない?」

「いいよ。明日は休みだし」


 薫は一緒に行こうと思った。明日は休みだから、飲んでもいいだろう。いつもは1人で飲んでいるけど、たまには誰かと一緒に飲むのもいいよね。


 すると、明日香は1枚のメモ帳の紙を出した。そこには、居酒屋の簡易的な地図が描かれている。


「じゃあ、ここで待ってるね」

「うん」


 突然だが、今夜はここで飲む事にした。まさか、明日香と飲むとは。そして、明日香が東京で暮らしているとは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ