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  作者: 口羽龍
第4章 養子と実子
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 朝6時、栄作は目を覚ました。もうすぐ岡山駅だ。岡山駅でサンライズ瀬戸・出雲は別れて運転する。サンライズ出雲は出雲市へ、サンライズ瀬戸は高松へ向かう。栄作はそれをあまり知らない。鉄道に興味がないようだ。


 サンライズ瀬戸・出雲は岡山駅に到着した。早朝にもかかわらず、そこには何人かの鉄道ファンもいる。彼らは分割作業を見るようだ。先に発車するには、高松に向かうサンライズ瀬戸で、その3分後にサンライズ出雲は出発する。


 サンライズ瀬戸は切り離され、高松に向かった。次の停車駅は児島駅だ。その先は瀬戸大橋で、坂出駅に停まり、終点の高松駅に着く。栄作は車窓から、東を見た。だが、東京はもう見えない。薫はもう香川県に帰ってきてほしくない。一生東京でやっていろ。もう会いたくない。


 サンライズ瀬戸は宇野線を走っていた。サンライズ瀬戸は快速マリンライナー同様、茶屋町から本四備讃線に入り、瀬戸大橋に向かう。栄作は感じている。瀬戸大橋が開業して、車両も新しくなった。四国への旅も変わったもんだ。だが、どんなに時代は変わろうとも、うちのうどんの味は変えない。その味を受け継いでいくのが自分の使命だ。


 サンライズ瀬戸は茶屋町駅から本四備讃線に入った。ここから先はトンネルが多くなる。この線路と並行して、下津井電鉄が走っていたらしい。栄作は幼少期、両親とともに岡山に行った時に乗った事がある。だが、茶屋町駅から児島駅にかけては昭和47年に廃線になった。茶屋町駅にはその後も下津井電鉄の跡が残っていたが、高架化によってその痕跡は失われてしまった。その後、児島駅と下津井駅だけとなった下津井電鉄は、日本に残る数少ない軽便鉄道という事でメディアから取り上げられていた。だが、赤字続きだったという。瀬戸大橋が開業した時、下津井電鉄は観光路線になろうと思い、児島駅を改装、新型車両を作った。だが、瀬戸大橋の開業によって道路が整備された事などから、平成2年の大みそかをもって残った区間も廃線になってしまった。


 いくつかトンネルを抜けると、サンライズ瀬戸は瀬戸大橋に入った。瀬戸大橋は朝の光を浴びて、幻想的だ。もう本州から四国に入った。それだけで、東京がさらに遠く感じる。どうしてだろう。海が隔てているだけなのに。


「薫・・・」


 栄作は薫の事を思い出していた。あんなにかわいい子だったのに、あんな事をしてしまった。どうしてそんな息子になってしまったのか。どんなに考えても、答えが見つからない。


 朝7時27分、サンライズ瀬戸は終点の高松駅に着いた。乗客は降り、そこから高徳線に乗り換える人もいれば、ここから高松築港に向かい、琴電に乗る人もいる。栄作のその1人だ。


 栄作は再び高松駅に降り立った。先日、ここに来たばかりなのに、新鮮に感じる。どうしてだろう。東京までの旅が変わったからだろうか? それとも、もっと他の理由があるんだろうか?


 栄作は歩いて高松築港駅にやって来た。高松築港駅のホームには多くの人がいる。今はラッシュアワーのようだ。彼らは通勤客だろうか? 今頃、薫は通勤ラッシュの中、高松製麺に向かっていると思われる。今日も頑張っているようだが、ここに来ないでほしい。一生東京で頑張っていろ。もう会いたくない。


 栄作を乗せた琴電琴平行の電車は、高松築港駅を後にした。その間、栄作は全く薫の事を考えていない。考えているのは、自分の養子で、一番弟子の望の事だ。この子には期待している。この味を受け継ぎ、次の大将になるだろう。薫の事はもう知らない。


 瓦町駅である程度混雑は緩和された。電車は琴平に向かっていく。いろいろあった東京の旅ももうすぐ終わる。これが終わると、また仕事だ。この店を頑張っていかなければならない。それが自分の使命だ。やがて、望もこんな事をしなければならないだろう。それは何年先になるんだろう。わからないけれど、その日は刻一刻と迫っている。望はどんな大人になるんだろう。そして、どんな嫁を迎え、どんな子供を設けるんだろう。どんな子供を設けるかわからないけれど、薫のような犯罪を犯さずに、いい子に育ってほしいな。


 電車は滝宮駅に着いた。栄作は滝宮駅で降りた。東京に行っている間、仕込みは俊介に任せている。頑張っているんだろうか? とても気になるな。


 栄作は実家までの道のりを歩いていた。とてものどかな風景だ。東京とは正反対だ。東京より豊かじゃないけれど、自分はここが好きだ。のどかで、自然が豊かだ。自分にはここが合っている。薫はどっちの風景が好きなのかわからないけれど、ここに戻りたいと思っているのなら、ここがいいに決まっているだろう。


 栄作は実家に戻ってきた。栄作は深く深呼吸をした。やっと帰ってきた。そう思うと、肩の力が抜ける。実家って、そんなものだろうか?


「ただいま」


 その声に反応して、望がやって来た。望は今月いっぱい、実家にいて来月からの準備をしている。


「おかえり。会ってきたの?」


 それを聞くと、栄作の表情が変わった。その表情を見て、望はまずい事を聞いてしまったと思った。


「ああ。だがな、お前が俺の後を継ぐんだからな。もうあんな奴、放っておけ! 一生、東京でやっていけばいいんだ」


 やっぱり継がせる気はないのか。一緒に仕事をしたいのにな。その方が、薫にはいいと思っているのにな。やはり、過去の事が邪魔をしているんだな。残念だけど、栄作の考えを受け入れないと。

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