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  作者: 口羽龍
第4章 養子と実子
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13

 その夜、仕事を終えた明日香は、いつものように帰宅していた。東京に住み始めてしばらく経った。徐々に東京での生活に慣れ、定着してきた感がある。そろそろいい人を見つけて、結婚しないと。今週の仕事が終わったら軽く飲みに行く。そんなに飲まないけれど、今週頑張った自分へのご褒美として飲もう。


 明日香は自宅に戻ってきた。明日香の自宅は2階建てのアパートだ。決して広くない、独身寮のような部屋だ。だが、結婚したら一軒家に住み、子供を産み、主婦になりたい。明日香はそう願っていた。


 明日香はテレビを見て、楽しんでいた。テレビでは、バラエティ番組がやっていて、芸人が面白い事をしていた。明日香は面白そうに見ていた。今日1日の疲れがあっという間に吹っ飛びそうだ。


 突然、インターホンが鳴った。夜に訪問する人がいるなんて、珍しいな。どうしたんだろう。


「はい!」


 明日香はドアを開けた。そこには栄作がいる。うどんの仕込みやうどん屋の営業ばかりで、綾川を離れる事のない栄作がやって来るとは。どうしたんだろう。まさか、東京に行った望の姿を見て、自分も行ってみようと思ったんだろうか? それとも、何か別の理由があってやって来たんだろうか?


「大将・・・」

「突然ごめんな。薫に会ってきたんで」


 それを聞いて、明日香は驚いた。薫が東京の刑務所にいるのは知っていたが、まさか出所していたとは。待った気づかなかったな。どこかで会っているかもしれないな。


「会ったんですか?」

「ああ」


 栄作は辺りを見渡した。こんな部屋に住んでいるのか。狭くて、家の一室ぐらいの広さだが、1人で済むのだから、これで十分だろう。


「ここに住んでるのか」

「うん」


 栄作は気になった。明日香は結婚したいという気持ちがあるんだろうか? そして、ここに来た望の事をどう思っているんだろうか?


「生活はいいか?」

「うん。そろそろ結婚も考えてるの」


 栄作は驚いた。そろそろ結婚を考えているとは。もう好きな人はいるんだろうか? もし子供ができたら、俺にも見せてほしいな。きっと俺のうどんを気にいるだろうな。


「そっか・・・」


 明日香は、薫が今、東京で暮らしているのが信じられなかった。今は何をやっているんだろう。明日香は気になった。


「薫さん、今もここに住んでるんだね」

「ああ。この店だ。この店で店長をやってる」


 そう言って、栄作は高松製麺のチラシを出した。高松製麺は全国チェーンのセルフうどんの店だ。讃岐うどんの本場、香川県のようにコシが強く、店内で作るできたての本格派というのが売りだ。明日香はよく利用しているが、まさか、利用している高松製麺の店長が薫だとは。でも、高松製麺は都内でいくつかある。チラシにある場所は、行った事がないな。


「店長って! そんな!」


 明日香は驚いた。前科があるにもかかわらず、店長にまで上り詰めているとは。相当腕があるんだろうな。やはり薫は栄作の息子だな。


「すごいだろうけど、どんなに腕を上げても継がせる気はないがな」


 明日香は残念そうな表情を見せた。やはり前科が原因だろう。それは仕方がない。だが、明日香は思っている。いつか、香川県で働く姿が見たいな。


「まさか、こんなに頑張ってるとは」


 栄作は近くのコンビニで買ってきた缶ビールと柿の種を出した。これから飲むんだろうか?


「とりあえず、一緒に飲もう」

「うん」


 と、明日香はコンビニに向かった。今日飲もうと思っていなくて、晩酌の用意を全くしていなかった。栄作は明日香の後ろ姿を見て、申し訳ないと思った。本当に急な事で申し訳ない。来るのなら、ちゃんと連絡をすればよかったな。


 しばらくして、明日香が戻ってきた。明日香も缶ビールと柿の種を持っている。


「1人で飲もうと思ってたのにな」


 明日香は思っていた。1人で飲もうと思っていたのに。来たのだから断れない。今日は特別だ。一緒に飲もう。


「ごめんな・・・」

「いいわよ」


 2人は缶ビールのふたを開けた。


「カンパーイ!」

「カンパーイ!」


 2人は乾杯をして、缶ビールを飲み始めた。まさか一緒に飲むとは。だけど、こんな事もいいな。


「まさか来るとは」

「望が東京に来て、薫に会ったと知ってな」


 やはりそういう理由もあったのか。望は東京観光を楽しんだけど、ひょっとして薫に会ったんだろうか? 会ったら、とても驚いただろうな。


「そうなんだ・・・」

「今、薫はどうしてるのか気になっただけだ」


 すでに絶縁状態だけど、息子は息子だ。今、何をしているのかは気になる。だが、家を継ごうと思っているのなら、継がせる気はないと釘を刺しておかなければならない。香川に帰ってくると、悪い印象を与えるだけだろうから。


「薫くん・・・」


 明日香は心配になった。いまだに栄作との絆は途切れたままなんだな。修復できないんだな。仲直りして、一緒に働いてほしいのに。


 と、明日香の表情を見ていた栄作の表情が変わった。また香川で一緒に働いてほしいと思っているように見えた。


「もうそんな奴、忘れろよ!」


 栄作は怒っている。薫が腹立たしいようだ。いけない事をした息子だもん。それは腹立たしいと思う。だけど、過去の事を見ずに、店長として頑張っている薫を許してくれないだろうか? 明日香はそう願っていた。

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